偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山田正紀『神曲法廷』感想

トクマの特選より、なかなか出ない囮捜査官シーズン2の代打として復刊された、佐伯神一郎シリーズの1作目。


多くの死傷者を出した神宮ドーム火災事件の公判の直前、東京地裁で担当弁護士と判事が不可解な状況で殺された。
精神を病んで休職していた検事の佐伯神一郎は、「正義は果されねばならない」という神の声を聴いて事件を追うことになる。
ドームを設計した異端の建築家の行方を追ううち、事件の背後にダンテの『神曲』の存在がチラつき......。


囮捜査官シーズン2の代打ということもあってか、本作も囮捜査官シリーズと同様に、警察や検察を主体に日本の司法制度の闇を暴きつつさらに大きな日本人論のようなものも盛り込みつつ警察小説(今作は検事ですが雰囲気は)と怪奇幻想ミステリを足したような著者独特の作品。
球場のドームや裁判所といった舞台の現実臭さと観念的な部分とのギャップに萌えます。

主人公が「神の声を聞く探偵」であることや、ダンテの『神曲』からのモチーフの引用などがもうなんかよく分からんけどバリクソカッコいいです。
アホ丸出しですけど『神曲』読んだことなくてWikipediaで慌ててあらすじだけ調べたのですが、その程度のほぼ何も知らない状態でもなんか雰囲気で楽しめます。

長いんだけど、起こることや登場人物たちが全てなんだか意味深で謎めいているし、事件も奇妙なものばかり次々と起こるのでそんなに冗長な感じもせずすらすらと読めました(ただ同じような説明が何度も出てくるのはちょっと読み飛ばしてしまった)。

ミステリとしては、不可解で魅力的な密室殺人とかが起こりつつそれらは明かされてみれば拍子抜けするような真相だったりして、その代わり事件らしき一連の出来事たちの全体図とか、観念的な動機とかの部分に尖った意外性があってめちゃくちゃ面白かったです。
また、下手すりゃバカ話みたいな結末もそれまでの物語による説得力からなんとも言えない凄愴かつ虚しい余韻を残して最高。

しかし、本作ですでに満身創痍の佐伯さんなのに続編があるってのがヤバいし、次はどんな酷い目に遭うんだろう、かわいそう......復刊楽しみに待ってます!