偽物の映画館

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白井智之『名探偵のはらわた』感想

あんま読んだことなくて、そのくせグロくてゲロくて汚いイメージが先行してなかなか手が伸びない白石先生ですが、本作はその辺かなりマイルドで読みやすいと聞いて読んでみました。



確かに、エログロ描写はほとんどない(いや、これで「ほとんどない」と思ってしまうのが......)ので読みやすかったです。

内容は、昭和犯罪史に残る重大事件の犯人たち7人が「人鬼」として令和の世に蘇る......というもので、全4話の連作形式をとった長編となっていて、さながら昭和犯罪史版『魔界転生』とも言うべき設定。
それに対するは名探偵とその助手原田わたる(通常はらわた)。伝説の犯罪者たちに負けじとこちらのコンビもキャラが立ってて楽しく読めました。

「人鬼」というモノが存在する特殊設定ミステリでありつつ、その設定を踏まえた上で各話で繰り広げられる捻られているけど分かりやすいロジックが気持ちよく、活劇っぽい要素もあるけど最終的にはちゃんと推理の力でもって「名探偵ってカッコいい!」と思わせてくれるのが最高でした。
B級ホラーからタイトルを借りている通り、ある種めちゃくちゃでごちゃごちゃなお話なんだけど、所々でしっかりエモさを出してくれるのが良いっすね。

ただ、7人蘇っていて全4話なことからも分かる通りほとんど触れられない事件も多々あるのがなんかちょっとモヤっとしてしまうので7話やるか4人とかにしといてほしかった......。
あと、表紙のイラストのキャラの正体には笑った。その位置付けのキャラを表紙にするなよ......。

1話目の「神咒寺事件」はいわばプロローグ的なお話で、それだけにある意味1番意外な展開もあったり、あと真相がかなりバカミスっぽかったりして面白かったです。

2話目の「八重定事件」は「愛のコリーダ」でも有名な阿部貞事件がモチーフで、元ネタの知名度が高いからこそ、元ネタの捻り方に驚かされてしまいました。

逆に「農薬コーラ事件」は元ネタをよく知らないからこそ騙されるようなところがありつつ、こちらは本作の設定や文明の利器を上手く組み込んであって唸らされました。

そして、本書のメインコンテンツと言っても過言ではないのが最終話の「津ヶ山事件」
調べてみれば元ネタにかなり寄せているみたいで、『八つ墓村』などでもお馴染みの津山事件を白井流に新解釈したような内容。でも、もちろんミステリとしても伏線と論理による推理の応酬たっぷりで、読み応えありまくり。さらに物語としても締めにふさわしいエモさ全開で、最終話に相応しい読み応え。

はらわた君たちの今後が気になるし続編読むの楽しみだな〜と思って調べたら、あらすじを見た感じだと続編は全く別の話っぽくて悲しい。でも続編は本作以上に評判もいいので楽しみです!