偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

空気階段『anna』感想

空気階段、テレビでたまに見ると毎回面白くて結構気になってはいたんですが、この度友達から貸していただいたので初めてライブを観てみました。


収録内容
noriko/27歳/SD/メガトンパンチマンカフェ/コインランドリー/銀次郎24/Q/anna


めちゃくちゃ良かったです!
めちゃくちゃ面白かったというのはもちろん、こんなにエモかったのか!?っていうのはテレビでは分からない、単独ライブ一本を一つの作品として通しで観たからこそ味わえた感動!
なんせ、作中でオープニングのYMO「東風」を含む3つの楽曲が流れるのですが、どれも好きなバンドの好きな曲で、特に挿入曲は私にとってアンセムでしかないので、イントロが流れた瞬間鳥肌が立ちました。もちろん、使い方の上手さも込みで。

さらに、最終話では、とあるミステリ的な仕掛けまで施されています。しかもそれがただ観客をあっと言わせようというだけのものではなく、それがあることによって物語の感動を増すものであり、私が今年読んだミステリの中で本作が暫定1位と言っても過言ではありません。

音楽とミステリという私の2大好きなものがバチコンとハマる形で入ってて、もはや私のために作られた作品なのではないかとすら錯覚してしまいます。

さらには、作中に出てくる登場人物はやばい人ばかり(もぐらさんはもちろんかたまりの演じるキャラも含めて)なんですが、その描き方に日陰者への優しい視線を感じるあたりは、同じく大好きなコント屋さんのシソンヌにも通じるところがあり、それも好きな要因の一つだと思われます。

そんな感じで、それなりに期待はしていたものの、こういう運命を感じるようなハマり方をするとは予想外でしばらく余韻に浸ってしまいそうです。

以下各話の感想を少しずつだけ。



「noriko」

イントロダクションのような位置付けの短めのお話。
初めてライブ映像を見る芸人の1本目って、これほんとに面白いんだろうな......大丈夫かな......という不安をかなり強く抱いてしまいます。映画とかだとそんなことないんだけど、お笑いって笑うために見てるのに笑えないとめちゃくちゃ気まずい空気になっちゃうので。
それでドキドキしてると、思いの外バカバカしいアレがきてめちゃくちゃ笑っちゃいました。
1本目のネタへの笑いだけは、安堵と疑ってごめんと次以降への期待とが入り混じった特別な笑いなんですよね。


「27歳」

私が今年ちょうど27歳なのもあって、笑いつつも身につまされてしまうお話でした。
シリアスな空気で溜めて溜めてからの一言ってのがほんと好きで。そこで一発決めてからはもうギャグのオンパレードなんだけど、しかし人名の使い方がズルすぎますでしょ。人の名前が出てくるたびにうひゃひゃって変な声出ちゃいました。
しかしかたまりはミュージシャンの役やるとほんと川谷絵音に見えますね。


「SD」

ミステリのトリックもお笑いも意外なもの同士が繋がることによる快感が肝......ってのは私の憧れる書評サイト『黄金の羊毛亭』氏の言葉ですが、このシチュエーションからアレが出てくる意外さと説得力なんかはそれこそミステリのカタルシスにも近いものだと思います。
もぐらさんがつっこみ(?)の立ち位置なのも新鮮で良かったです。


「メガトンパンチマンカフェ」

ミュージシャンの苦悩、サイバーテロリストと、題材的にはシリアスな話が続きましたが、これはもうタイトル通り最初からアホみたいな話です。
もぐらさんの外見含むキャラの作り込み方と、かたまりの素みたいな喋り方とのギャップが良かったです。あとアイホープが最高でした!


「コインランドリー」

もぐらさんのヤバいキャラがめちゃくちゃ堂に入ってるというか本人にしか見えないくらい似合ってるのに対し、かたまりのヤバいキャラはなんか作ってる感じがするけど、普段地味なオタクが文化祭で頑張っちゃったみたいな可愛さがあって良いと思います。
でもランドリーマン、こんな風なのにちゃんと仕事してて凄いと思う。


「銀次郎24」

ここまでモロにガチな下ネタもやるんだ!と驚いてしまうくらいの下ネタ。
着想そのもののアホくささと、始まりからは予測できない展開が素晴らしいっす。
あのいかにもありそうなVTRに子供の頃を思い出して懐かしくなりました。授業でああいうの見るの結構好きだったんですよね......。


「Q」

最後のネタの前のインタルード的なやつ。
ここまでかなりしっかりしたストーリーのあるお話ばっかだったところにこのシュール系のが来るのが新鮮で良いっすね。
まぁ正直無理やりわけわかんないことやろうとしてる感じがしてあんまり笑えなかったし、オチもすげえざっくりしてるように感じてしまったのですが、最終話の前に奇妙な空気感を出すのには成功してると思います。


「anna」

あー、もう、好き。最高。惚れました。
私自身はラジオにそんなにめちゃくちゃハマってたわけではないんですけど、それでもお年頃の時分にはラジオで初めて知ったミュージシャンのファンになったり、夜中の下ネタ満載の番組をドキドキしながら聴いたりした経験はあるんで、ラジオという題材とその愛ある描き方だけでもかなりグッときちゃいました。
その上、ラジオが発端の淡い青春の恋模様を描いていたかと思えばどんどんドラマティックな展開になっていきながらミステリ要素もぶっ込まれつつ大好きな曲が流れつつ余韻しか残らねえラストと、素晴らしい映画を一本観たような満足感があってもう最高っすよね。
これまでも「空気階段結構好きかも〜」とか思ってましたが、これを観てもう完全に大好きになりました。
(ネタバレ→)これまでのネタに出てきた色んな人が本人たちも知らない間に少しずつ繋がっているという伊坂幸太郎みたいな伏線回収が、気持ちいいだけではなく彼らの存在が肯定されるような優しさにも繋がっている気がします。
そして、あの叙述トリックも身構えていれば見破れそうなシンプルなものではあるのですが不意打ちだったので完全にやられたし、あれがあることで、それまでもぐらさん視点で見ていたのが一気にかたまり視点も見えてきて、物語の枠が広がるような爽快感と感動があるんすよね。
泣ける。

もうほんとハマっちゃったので、とりあえずYouTubeに過去のライブのがいくつか上がってるみたいだから見てみます。貸してくれた本多さんありがとう。