偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

梓崎優『リバーサイド・チルドレン』感想


カンボジアの川沿いの土地でストリートチルドレンとして暮らす日本人の少年ミサキ。自分を拾ってくれたヴェニイら6人の仲間たちとゴミ拾いをして暮らしていたが、ある日ストリートチルドレンを排除しようとする警官"黒"に仲間の1人が殺されてしまう。それを皮切りに、次々と奇怪な死が続き......。


『叫と祈り』の著者の、今のところ2冊しかない著作の片割れであり、唯一の長編です(『狼少年ABC』も『サライェヴォ・グラフィティ』も出てくれ)。

前作『叫と祈り』も世界各地が舞台の短編集でしたが、本作もカンボジアストリートチルドレンという日本人には馴染みの薄い題材を扱いながらも脅威のリーダビリティでさくさく読ませてくれる、それでいて読後は重く心に残る傑作になっています。

主人公はとある事情でカンボジアストリートチルドレンになった少年・ミサキ。かつては日本で恵まれた暮らしをしていた彼の視点から描かれることと、映像的な文章の力もあって、馴染みのない彼らの暮らしに少し読み進めるともうすんなりと入り込んでしまえます。
川を下るごとに、ストリートチルドレンたちの棲家からスラム街、観光地化された街と、どんどん生活水準が上がっていく格差が可視化されたような地形も分かりやすくて、地図とかは載ってないけど頭の中でこの地の雰囲気が掴みやすくて良かったです。

ストーリー展開も連続する殺人と同時に謎の少女やNPOの日本人女性、他のグループのストリートチルドレンたちなどとの絡みも次から次へと発生して常にお話が動いている感じ。作中に映画の話が出てきたりもしますが、本作自体がスピード感があるアクション映画な文章・展開で描かれていて読みやすいしとにかく読んでて面白いんすよね。
またキャラクターたちもみんな魅力的。劣悪な環境にあっても悲観的にならず日々を自由に生きている子供たちの姿が美しい。特に、仲間思いで「名言」を集めて強かに生きるヴェニイのキャラは印象的。それに対して大人のキャラクターたちの内面はあまり深く描かれないけれどそれぞれ何か抱えているんだろうという仄めかしはあって良い味出してます。

お話としての魅力に溢れすぎているため、次から次へと殺人事件が起きる展開にはだいぶ凹んでもしまいますが、この設定でしか描けない強烈なインパクトのある真相には唖然とさせられるし、理解はできても共感はできない、ある種突き放されたような真相こそが、恵まれた私たちとは隔絶された彼らの境遇を思わせてつらくなってしまいます。
外部から介入する探偵役の登場はやや唐突で都合が良く感じてはしまいますが、内部の視点からは解決が難しいであろう真相なのでまぁしゃーないか。ネタバレになるので避けますが探偵役のキャラクターはとても良かったです。
というか、もはや物語としての良さが強すぎてミステリとしての解決が無粋にすら感じられてしまわなくもないですが、そんだけ感情移入して読ませてくれるのが凄いです。