偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

駕籠真太郎『都市とインフラストラクチャー』感想


『登校途中の出会い頭の偶然キスはあり得るか?実験』『異物混入』に連なる、奇想漫画家・駕籠真太郎先生の新刊です。



「アックス」掲載の4ページのショート漫画を中心に、SNSなどで発表された4コマや書き下ろしのタイトルトラック「都市とインフラストラクチャー」を収録した作品集。

感想と言っても、ほんとにいつもの駕籠真太郎節なので特別な感想はないのですが、やっぱ面白かったすね。

4ページのショートショート集ということで、駕籠真太郎らしい奇想が剥き身で味わえるような一冊で、要は「それがやりたかっただけでしょ!」っていう出オチみたいな話ばっかなんですけど、その出オチがガチで面白いからオールオッケーなんですよね。
出オチとは言っても、発想の飛ばし方にある種ミステリのどんでん返しに近いような意外性があるからめちゃ面白いです。
例えば冒頭の「耳管」は、飛行機に乗ると耳がぼんぼんする現象を大胆に敷衍してアレに当てはめる意外性が爆笑を誘います。
或いは、「ミニスカート」「線路」あたりは短い中に一応の謎と解決がある本格ミステリの構造になっていますし、「存在感のなさ選手権」はめちゃくちゃ地味に大トリックを繰り出すサプライズミステリの面もあり、『フラクション』で著者を知ったミステリファンとしてもやはり楽しめる作品集になっています。

一方で、「都市とインフラストラクチャー」というタイトルの通り、人体、内臓、性器などの生々しい有機物と、ビルや水道やパズルといった無機質なものとの融合には妙なフェティシズムとなんか深そうな芸術性のようなものが感じられます。
それは表題作が意味深な形で本書中に挿入されているからなんですけど、これのおかげで馬鹿馬鹿しいエログロナンセンスの影に人間と都市の在り方のような深いテーマがありそうな感じがしちゃうのがずるいっす。
全編バカでしかないのに、表題作だけのおかげで読後の余韻はアート系の映画でも観たみたいな感じになっちゃいますからね。

あと、意外と巻末の4コマ漫画コーナーの方が起承転結がしっかりしている(当社比)感じがして、やれば出来る感を出してきてます。

それから、小綺麗な絵ではないんだけど、時々女の子に妙な色気があったりするのも良いっすね。
「リング」と「人魚姫」がなんかエロかったです。

まぁそんな感じで、発想の意外性重視なので著者にしてはマイルドで、私みたいな新参者でも読みやすい作品集でした。オススメ。