偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

panpanya『商店街のあゆみ』感想


著者の記念すべき10冊目の著作らしく、私としては『蟹に誘われて』に続いて2回目のpanpanyaさん体験。


全体としては『蟹に誘われて』の感想に書いたこととそんなに変わらないんだけど、そんな個性が強すぎて全部同じに見えちゃう感覚にも安心感があって、きっと私は飽きもせずにこの人の本を見かけたら1冊ずつ買って読んでいくんだろうなと思わされた。
まぁ要は、どタイプ。自分になんらかの才能があればこういう味わいの作品を作ってるだろうなと思うくらい、私の読みたいものそのものみたいな作風なんすよね。

以下各話感想。




「家の家」
家の家というシュールな発想により実現した家のキメラみたいな絵面がもう最高。ありふれた家の内装だけで作られるあり得ない光景のギャップに萌えるし、だんだんコマ割りというものが間取りみたいに見えてきてしまう。
オチもシンプルで好き。


「ここはどこでしょうの旅⑥」
⑥ということは前作に①〜⑤が載ってたりするんでしょうか。
タイトルの通りどこだか分からない場所にふっと放り出されてここはどこかを探るミステリー。whoとかhowとかwhyに比べてwhereの謎を扱うミステリなんて少なくてほとんど読んだことないけどまさかこんなところで読めるとは。
車が大量に並ぶ風景が圧巻で、それだけに強烈な不穏さを感じますが、真相が明かされることで爽やかな風が吹き込むようなカタルシスがあるのも素敵でした。


「蓋然」
電車の窓から見える風景に住む想像にもう共感。自然の中に人工物がある風景が大好きな私としてはこの光景は垂涎もの。想像の中にだけある異界的な最後のページのビジョンも素敵。あと電車の「ガタンゴー」って効果音が良すぎるな。


「スーパーハウス」
まさかのバトルもので、コマ割りもいつもより派手に動いてて楽しい。
カニック趣味をなんの変哲もない普通の家にぶち込むセンスは著者らしく感じられ、しかしギャグとアクションに振り切ってるため2冊しか読んでないけど「こんなんも描くんだ」という異色作でもあってインパクトありました。


「ここはどこでしょうの旅⑦」
どこでしょう2編目は一面の雪景色。これも一面の雪景色だけからは想像しなかった意外な(しかし身近な)光景が現れる気持ちよさがあり、めちゃくちゃハイレベルな自由研究みたいな装置で問題解決するあたりもめちゃくちゃワクワクする!
あえてあそこで終わるのもオシャレでいいですね。


「たのしい不動産」
家そのものをDIYするという発想からして良い。著者は何かしらそういうものづくりの仕事をしてたんやろか......って思っちゃうディテール。


「うるう町」
地図にない区画を探すという発想からして良い。地図上の情報から「地図」というもの自体の講義みたいになりつつあそこに辿り着くのがまたフェチ全開で最高っすね。ワクワクせざるを得ないでしょ。


「正しいおにぎりの開け方」
まさか本当に10ページにわたってコンビニのおにぎりの開け方を細かく解説するだけの漫画だとは思わんやんか。でもそれをやっちゃうのがpanpanyaさん。ただの開け方ではなくある目的をもっての開け方なんですが、あまりにも細かいので実際に普段からやってるとしか思えなくて変な人だなぁと思う。こういう変な人になりたかったよ......。


「ここはどこでしょうの旅⑧」
とある集合住宅の一室という、これまでの回に比べると分かりやすそうな場所からスタートですが、今回も思いもかけない方法で場所を絞り込んでいく過程が楽しい。学生の頃に数学なんて勉強して将来なんの役に立つんだと思ってたけど、見知らぬワンルームに放り込まれて場所を当てなきゃいけなくなった時には役立つのね(ねえよ)。


「幕間」
擬音語のセンスが良すぎるな!
見えない部分が気になってしまう感覚がなんだか懐かしい。子供の頃にはこういう好奇心がもっとめっちゃあった、今より。


「奇跡」
冒頭の勢いと主人公の表情の可愛さにめちゃくちゃ笑ってしまった。メカニック怪奇趣味的な味わいを残しつつギャグSFみたいななんともカオスな話だけど着想はめちゃシンプルなのが良いっすね。アイデア自体はまだしも思いつきそうだけどそれをこう描くのが凄い。


「ここはどこでしょうの旅⑨」
町中の河川という絶妙ノスタルジックな場所設定がやっぱ上手。川についてお勉強になるのがなんか面白いし、推理法もこれまたなるほどなと唸らされた。しかしこのくらいのふわっとした回答でも許されるのか?みたいなことを考えたらダメなんでしょうね。


「ビルディング」
これも自然と人工物の境界が曖昧なお話。近所にビルができるのも知らない人に苗をもらうのもなんかありそうなのに、組み合わせるとありそうな質感のままありえねー話になるのが素晴らしい。


「ここはどこでしょうの旅⑩」
趣向を変えてきたのは面白いけどこのシリーズに求めるものとは違うかな......。推理も言い方を難しくしてるだけでそんだけかい!という感じ。


「累々漠々」
テトラポッド大好き人間としては住宅街に溢れるテトラポッドの群れを観られただけでもう満点。人の繋がりを感じさせる展開も、とんでもなく飛躍するラストも好き。


「商店街のあゆみ」
表題作。
商店街のあゆみって、商店街のこれまでの歴史とかのことだと思ってたら、本当に商店街のあゆみのことだった!
でもまぁ結局あゆみ(物理)もあゆみ(歴史)も同じことなのかもしれんわね。
主人公の学校に通いながらのお店やさんごっこみたいな暮らしも微笑ましく、最後のコマの言葉に著者の漫画の魅力が全て凝縮されている気がするのも素敵である。