偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

突撃(1957)

ロリータに続きキューブリック監督の観てなかったやつ補完計画。



1916年、第一次大戦下のフランス。
元弁護士のダックス大佐が率いる部隊に、兵士の半数が死ぬことが見込まれる無謀な作戦の命令が下った。作戦は決行されるが、ドイツ軍の反撃を受けて撤退を余儀なくされる。
しかし、それが臆病者の敵前逃亡と見做され、3人の兵士が見せしめに処刑されることになる。部下の命を救うため、軍法会議で弁護に立つダックスだったが......。


前半は戦場が舞台、後半は軍法裁判のシーンという2部構成。
全体を通して戦時下における人間の残酷さ、醜さがどっぷりと描かれています。
あのクソな将軍とかだって一人一人は家庭や友人といる時は悪い人じゃないんでしょう。国を背負うフランス軍という組織の形と大義名分を持ってしまうことで個は押し殺され、それだけに止まらず実際に殺されてさえしまうのが恐ろしい。
反戦映画の傑作と言っても良いと思いますが、(戦争というテーマの矮小化かもしれませんが)戦場に限らず、学校のイジメや会社のパワハラなんかも構造は同じようなものであるように思い、身近で普遍的な人間ドラマだと感じました。
最後の方の独房に入れられた生贄の兵士たちの場面は胸が苦しくて見ていられないような理不尽さと怖さがあって忘れられません。

ほぼ男しか出てこない映画ですが、唯一女性が出てくるシーンがとても印象的。
めちゃくちゃ理不尽で胸糞悪い話ではあるけど、その中に希望を込めて描いているのも素敵でした。

以下ネタバレ。















































最後、あの最悪の将軍も転落することが示唆されているのはスカッとする気持ちもあるけれど、それよりも組織というものの中では力を持つ人間でも一つ間違えば無情に突き落とされたり切り捨てられたりするんだという恐ろしさがありました。

処刑のシーンはハリウッドのしょーもない大作映画ばっか観てるせいでどこかで何かしらあって助かるんじゃないかとか思ってたけどそんなに甘くなくて辛かったです。

最後の歌姫が出てくる場面、下品な兵士たちの野次に胸糞悪さと、この後強姦でもされるんじゃないかという不安を煽っておいてからの、残酷な戦場で少しだけ希望が見えるシーンに変貌するあたりは見事。
男しか出てこない作品で、泣く登場人物もそれまでは処刑されたあの兵士しかいなかったところに、最後の最後に女が出てきて兵士たちみんな女のように涙を流すっていうのがあらゆる暴力や圧力に塗れた男社会への反撃という感じでとてもエモかった。
あの優しさがあることでただ嫌な話だったでは終わらない深い余韻が残ります。