偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

青池保子『エル・アルコン -鷹-』感想

フォロワーのこいさんに勧められて読みました!こいさん、あざまる。


16世紀末、イギリス。海軍将校のティリアン・パーシモンは、敵国スペインと内通しながら世界の七つの海を制覇するという野望に燃えていた......。

野望のためにはどんなことでもする冷酷なティリアンの生き様を描く、海洋冒険漫画です。
勧めてくれたこいさんからは「ティリアンがイカす」というコメントを頂いたのですが、まさにその通りでティリアンというキャラクターの魅力が作品そのものの魅力になっているような作品でした。

このティリアンという男、超絶美形で知力も体力も無尽蔵というチート的なキャラクターで、こいつが正義の味方のイケメン王子様ポジションだったら一瞬で醒めそうなんだけど、野望のためには汚いこともするダークヒーローみたいに描かれているので読み進めるほどにどんどん惹かれていってしまうんです。
そんでも序盤では悪徳艦長を陥れたりとか、やり方はワルいけど相手も嫌なやつだったりしてスカッとするようなエピソードが多いんですが、だんだん別に悪いやつじゃない人をも利用し陥れ抹殺していくようになり、俄然面白くなっていきます。
まぁ正直だいぶドン引きなこともやるんだけど、とにかく彼の中に「野心」という揺るぎない軸が一貫してあるのが、私みたいに人として軸がぶれている人間からするとマブいんすよね。

そして脇を固めるキャラクターたちも魅力的。ティリアンに憧れて強くなっていく気弱な少年や、ティリアンが幼少期に懐いていた母の友人(愛人)のおじさんとのBL的な空気のあるやり取りなんかも素晴らしいし、友達の婚約者や女海賊といった、ティリアンと愛憎劇を繰り広げる女性キャラたちも印象的......。
また各エピソードで敵キャラをいかにして陥れていくかという謀略サスペンス的な読み方も出来て、文庫本一冊の短さながら重厚かつ楽しさ満載な物語を堪能しました。

ちなみに私が買った文庫版には『エル・アルコン -鷹-』『テンペスト』という、ティリアンシリーズの2作品が収録されていましたが、もう一つ『七つの海 七つの空』という、本書より前に書かれたけど本書の物語の続きに当たる作品があるらしく、そちらも文庫でポチりました。楽しみです。