偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

小泉喜美子『死だけが私の贈り物』感想


トクマの特選には頑張ってもらいたいので興味ある作家のは全部買うことにしました。

小泉喜美子は長編を五つしか書いていないと解説にありましたが、そうなると既に三つ読んでいてこれも読んだのであとは『ダイナマイト円舞曲』だけということになります。
トクマさん、どうか『ダイナマイト円舞曲』も復刊お願いします!!



自分の余命が残りわずかであると悟った大女優は、使用人の運転手の手を借りてこれまで自分を苦しめてきた人間たちに復讐を果たして行く......。


文庫で250ページ程度の短めの長編で、内容も至ってシンプル。しかし軽妙でありつつ軽薄ではない、陳腐な言い草ですがフランス映画の様なエスプリとスタイリッシュさのある作品でした。

とにかく文章が良いです。
読みやすくも皮肉なユーモアに満ちています。嫌な人間たちに物理的に復讐していく話ではあるのですが、それ以上に地の文での被害者たちへの辛辣な書きっぷりが1番痛快なあたり凄いと思います。この毒舌っぶり、小泉喜美子性格悪いですよね絶対。
また、大女優のパートだけだとどうしても話が重たくなってしまうところ、新婚の若手刑事・山田くんの視点を交えることで、こちらはユーモアというよりはドタバタギャグの様なお間抜けさでふっと和ませてくれて緩急あるのも上手いと思います。

そして、これはトクマさんアゲでもあるのですが、大女優が役者としての成功と引き換えにレイプされて......という第一の被害者への動機はモロに現代の#MeTooそのものであり、この時代にこれを書いていた著者も凄いし、それを"令和の新刊"として復刊したトクマさんのセンスも流石だと思います。

ミステリ的な面で言うと、『弁護側の証人』のあの大胆不敵なトリックなどに比べればちょっと小粒な気がしちゃうけど、これだけシンプルな筋立てからこれだけ捻ってくるサービス精神は流石っすね。
また、本書にはプロトタイプとなる同名の中編も併録されているのですが、比べてみると長編版では捻りをさらに加えてあって、お話の作り方の一端を垣間見られるのも面白いです。ユーモアも長編版の方がたっぷり加えられていて、「ここにこう肉付けするのか〜」という楽しみ方。
こういうボーナストラックも復刊の醍醐味の一つだと思います。ありがとう、トク魔くん。