偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

大澄剛『千代に八千代に』感想

国語、理科、数学......学校の教科をモチーフにした全7話の短編からなる連作集。
各話が緩やかにつながっていて、前の話の脇役が次の話で主役になったりしながらだんだん作品の世界が広がっていくような作りになっていて、でも広がっても知り合いの知り合いくらいの手の届きそうな範囲の世界。そして各話ともそんなにドラマチックなことも起こらない、その小ささと普通さこそが愛おしい作品で、絵の美しさも相まって基本的にはほっこりした気持ちで読めました。
ただ、最初と最後の話にちょっと気持ち悪さを感じてしまったのも正直なところなので、その辺も踏まえて以下各話感想です。



「千代に八千代に」
先生に恋する女子生徒のお話で、年の差恋愛ってだけで正直ちょっと身構えてしまうところに来て先生という人間が全く描かれず顔も内面も空白になっているのがなんとも気持ち悪く、いい話のつもりかもしれないけどホラーとしか思えなかったです。
そもそもこんな美少女が中年のおっさん好きになる時点でリアリティないんだから、せめて先生が彼女をどう思ってるのかくらいは描いてくれないと生贄に捧げられた処女にしか見えへん。それで「生徒と結婚とかキモ」みたいな陰口を叩かれても、陰口言ってる方にしか共感できない。


「太陽の下」
タイトルと反対に雨にまつわるお話。
歳の差でもこんくらいなら全然良いし、むしろ私も2つか3つくらい下の女の子が好きなのできゅんきゅんしました🥰
お互いに惹かれ合う理由もちゃんとわかるし、なんで表題作もこういうふうに出来なかったんだろう......とまた文句を言ってしまう。
雨のシーンの絵が良すぎた......。


「circle」
小学生の少年が円周率を通じて算数(数学)の奥深さを知るお話。円の中に宇宙があるという途方もない感慨を近所の駄菓子屋さんで得る、壮大さと近さのギャップがめちゃ良いっすね。なんでもない夏の日のなんでもない、でもなぜか後々まで忘れられない記憶になってそうなひと時の出来事。エモい。

「I Love You」
I Love Youの訳し方というベタな題材ながら、恋愛ものではなく母親の彼氏との距離感を描くお話になってるのが一捻りあって面白い。
終盤の変な勢いと、最後のおまけみたいなコマでのクールダウンが好き。


「パッチワーク」
最後はちょっと重ための恋のお話。
国語理科算数英語ときて社会じゃなくて家庭科になるのがちょっと据わりが悪い気はしますが、パッチワークというモチーフのストーリーとの絡め方がうまく、そもそも最初の方どういうお話なのか掴みづらいあたりもどこか継ぎ接ぎめいていて翻弄されました。そして、最後のあの絵が素敵。胸が苦しくなりつつ、これはハッピーエンドと受け取っても良いんじゃないでしょうか。


そして、以下2編は教科シリーズではないボーナストラック的な作品たち。

「融けるほど、」
氷女の一夏の恋という題材が良すぎる。
氷女の描写がフェチ強めすぎて若干引くけど可愛い。あと氷女の友達である語り手的な女の子がめちゃくちゃ良かった。


「おさな一号」
ベタなラブコメって感じで良いんだけど、それにしても男がクソすぎて引く。わからん、イケメンだから5割増しくらいで嫌なやつに見えるのかもしれんけど、冒頭からしてウザっと思っちゃう。