偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

バッファロー'66

最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた

......その通りです、とびっきりの天使に出会いました。


製作年:1998年
監督:ヴィンセント・ギャロ
出演:ヴィンセント・ギャロクリスティナ・リッチ

☆4.4点


〈あらすじ〉
刑務所から出所したビリー。実家に帰ろうとするが、見栄っ張りな彼は両親に電話で「フィアンセを連れて行く」と言ってしまう。フィアンセなんているはずもないのに。
おしっこを我慢していた彼は、トイレを借りるため入った建物でレイラというGirlを拉致する。実家に連れて行き、フィアンセのフリをさせるためだ。
どうしようもないクズのビリーだが、彼の純粋さや優しさを見抜いたレイラは徐々に彼に惹かれてゆく。しかし、ビリーには二つの秘密があって......。



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「‪もしもモーニング娘。に君がスカウトされたらどうしよう もしも君がいないと僕は登校拒否になる」
(銀杏BOYZ『あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す』より)



というわけで、前置きが長くなりましたが、これは私のために作られたラブストーリーでした。

主人公のビリーはどうしようもないクズの非モテ野郎。見栄を張って嘘をつき、おしっこしてて隣の人と目があっただけで「俺のちんこ見たやろ!💢😡」とブチ切れ、あげく嘘を糊塗するために女の子を拉致るというクズっぷりが冒頭10数分程度の中で連発されます。
私もここまで観たところでは「なんだこいつ〜〜っ!💢こんな嫌な主人公は嫌だ!💢」と語彙がなくなるくらいイラっとしましたが、攫った女の子を実家に連れ行った場面からガラッとビリーへの印象が変わりました。
というのも、そう、彼の両親が彼以上にクズだったのです!
この両親のクソっぷりがいっそ面白いので具体的には書きませんが、親にこんな風に育てられてたらそりゃこうなるよ......と、ここでビリーへの気持ちは「ムカつき」から「同情」へと移るのです。

そして、終盤ではさらに彼への気持ちが「共感」へと進んでいき、最終的には「自己との同一視」にまで発展していきます。
観ているうちに、クズ主人公の等身大な苦悩に、反感から共感へと気持ちを180°ぐるっと揺り動かされるところが本作の大きな魅力の一つでしょう。です。である。



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「誰よりも醜くて誰よりもバカ そんな彼を リリー、君だけは笑ってくれないか」
(ドレスコーズ『Lily』より)



さて、本作のもう一つの大きな魅力、それはもうズバリ、ヒロインのレイラちゃんです。そりゃそうだ!



可愛い。


可愛い。


おっぱい。


めっちゃ可愛い。


というわけで、めちゃくちゃ可愛いんです。
ロリコンだけどおっぱいは好き。そんな私みたいな人はヒロインの可愛さを観るためだけでもこの作品を観て欲し......って誰がロリコンやねーん。

ただ、ここまで可愛い女の子が、上に書いたようなクズ男に拉致られて逃げ出さずにほいほいついてきて、あろうことか彼を好きになるなんてめっちゃ御都合主義じゃない???という疑問を抱いてしまいますが、そこもノープロブレム。
この物語は主人公ビリーにとってのラブストーリーなのでレイラの事情には触れられませんが、それでも彼女も何かを抱えているような雰囲気がぷんぷん出ています。
象徴的なのは初登場の、バレエのレッスンを受けているシーン。レイラは他の人たちとやや距離を空けて隅っこで踊っています。服装も彼女だけ私服感バリバリで明らかに浮いてる感じ。このような、レイラが世の中に順応できていなさそうな言動が作中のところどころにさりげなく入っているので、彼女がビリーを好きになることも必然のようにすら思えてしまいます。
彼らはきっと似た者同士で、だからこそレイラはビリーの本当の姿を見抜くことが出来たのでしょう......。
最初は御都合主義っぽくも段々納得できるようになる......という、レイラの気持ちに対する観客の印象の移り変わりも、ビリーへの印象と同様に本作の大きな魅力だと思います。

レイラちゃんが可愛いシーンはもうほんとありすぎるほどあって語り始めるとキリがないので省略します。しかし、私のオールタイム可愛い映画のヒロインランキングに余裕で入りますねこの子。ちなみにこのランキング、他にはチャップリンの「モダンタイムス」、「50回目のファーストキス」、「アパートの鍵貸します」、「ローラーガルズダイアリー」などが入ります。というどうでもいい情報。



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「君のおっぱいは世界一」
(スピッツ『おっぱい』より)



というわけで、主人公のビリーとヒロインのレイラの魅力こそが本作の魅力の核心でありまして、観ているうちに彼らに感情移入できた非モテクズ野郎ども(失礼)だけが、「2人はどうなっちゃうの!?」と、本作をわくわくどきどき楽しむことができるわけです。

で、そしたら2人はどうなっちゃうのか?そして私は何でこんなにこの映画にハマっちゃったのか?
以下では結末の展開込みでそのへん書いていきます。ラブストーリーについてはネタバレしたところで別に......って気もしますが、観てなくてネタバレが嫌な方はご注意ください〜。






















ビリーの抱える二つの秘密。
一つは、小学校の頃からずっと好きな女の子がいること。
両親の前でレイラに好きな子の名前を名乗らせたり、ボーリング場のロッカーに写真を貼っていたりと、実に王道な片思い具合。
しかし、レイラと共に入ったデニーズで片恋の君とその彼氏に遭遇してしまいます(関係ないけど洋画に出てくるファミレスってカッコいいですよね)。
このシーンが私大好きなんですけど、隣の席からビリーに向かってあからさまに馬鹿にしたようなことを言ってくる片恋の君に、レイラちゃんが「彼はいい男よ」みたいなことを言ってくれるんです。このレイラちゃんのムッとしたような、それでいてどこか誇らしげな感じがもう......天が使わしたと書いて天使です。天使性が高すぎるんです。

その後、その件についてごたごたがありつつも二人はモーテルに泊まることに。もちろん片思いを抱える童貞のビリーは、見るからに誘ってるレイラちゃんにも手を出すことなどなく......。ここのビリーの拒否具合がもう凄いピュアっピュアで可愛いんです。
お風呂に入る時も覗かれたら困るからパンツのまま湯船にちゃぽん。後から裸で入ってきたレイラちゃんに触れることもなく、ゆぶねの端と端で膝を抱えて向き合う姿勢の切なさ可愛さ。実際のところ洋画ってのは出会ってマイナス4秒でセックスするのが当たり前の文化圏で、こういうピュアな男女関係を描いた作品ってのはどちらかというと珍しい方。そのむずがゆさは日本の非モテ人間にも突き刺さるんです。
そして風呂から出た二人はベッドに横になるわけですが、もちろんビリーくんは針金みたいにぴーんと伸びて変な角度で転がってるんです可愛い。そんな彼を胸に抱くレイラちゃん。胎児のように丸まって抱かれるビリーくん。可愛い。ここにきて、レイラのおっぱいの大きさも母性を示す重要なモチーフだったことがわかりますおっぱい最高Yeah!

しかし、ビリーにはもう一つの秘密が......。
ってまぁこれは前半のうちに明かされてるんですが、そう、彼は自分をハメて無実の罪でムショ送りにした悪いやーつに心の中で復讐を誓っていたのでした。
こっそりと拳銃を懐に入れ、「コーヒーを買ってくる」とレイラに告げるビリー。レイラは嫌なものを感じで引き止めようとしますが、ビリーは「すぐ戻るから」と言ってモーテルの部屋を出てしまいます。

かくして、ビリーは悪いやーつが夜遊びしてる悪いみーせ(店)へ向かいます。
そしてビリーは悪いみーせで悪いやーつを発見し、銃を取り出して撃ち殺します、そして銃口を自分に向けてドカン......
......という妄想をするビリー。しかし、そこで頭をよぎるのが自分の墓の前でスポーツの試合のラジオ中継を聞いて文句を言う母親。自分が死んでもあのババアは悲しまねえ、それなのに死んで何の意味があるってんでい......。

急に復讐がバカバカしくなったビリーは、下品な遊びに興じる悪いやーつにご挨拶をして、モーテルのそばのカフェエへに入ります。
見てるのが恥ずかしいくらいに浮かれて、「このハート形のドーナツいいね、考えた奴は天才だよHAHAHA」などと店主に供述するビリー容疑者(未遂)。その顔にはもうさっきまでの憂いはありません。
ここがもう、わかりみしかないといいますか......。
結局、この映画を一言で言うなら、人が恋に落ちる瞬間を描いたお話......ということなんですよね。普通ラブストーリーは好きになってから始まるものですが、この映画は人が人を好きになるまでの過程をラストシーンまでに渡って丁寧に描いているわけです。だから本作は、ら理由も説明されないままイケメンと美女がなんとなく恋に落ちてマイナス4秒で合体するような映画にうんざりしている向きには是非オススメしたい子供のためのラブストーリーなのです!

さらに、今まで誰からも愛されたことがなくても、そのせいでヒネくれても、素直で真摯な気持ちを忘れなければ分かり合える人に出会える......という、恋愛失敗率の高い人へのあまりに優しい救いの物語でもあるのです。です。
あまり自分のことを語るのもよくないですが......(と言いつつ今まで散々書いてますが)、私自身こないだまで常に頭のどこかに死にたい気持ちが沈殿した生活を送っていました。それはそれで今思えば良い思い出だけど、あのままだったらヤバかった気がする......そんな時に天使がやってきたのです。
そのことについても色々とモヤモヤした気持ちもあったんですが、この映画を観て、これで良かったんだと思うことができました。
私は今でもまだ、これからもきっとクズのままですけど、人に会うたびに見下されて泣きながら帰ってきますけど、そんでもクズはクズなりに小さな赤い灯を守りながら頑張って生きていこうと思いました。
それではお別れの時間がやってきました。最後に一曲聴いていただきましょう。スピッツで、『スカーレット』。



「離さない このまま時が流れても ひとつだけ小さな赤い灯を守り続けていくよ
喜び 悲しみ 心ゆがめても 寒がりな二人を温めて 無邪気なままの熱で」

(スピッツ『スカーレット』より)