偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

大島清昭『影踏亭の怪談』感想

ミステリーズ!新人賞!を受賞した表題作を含む4編の連作短編集。

怪談と本格ミステリ(すべて密室もの)を融合させた連作集。
主人公である怪談作家の呻木叫子の原稿と、各話の語り手の視点とが交互に語られる構成になっていて、呻木の原稿だけ切り取っても怪談実話系の短編としても読めるのが特徴的。というか、怪談部分はただ怪談であんまりミステリ部分には関係なかったりもするんだけど、実話階段を読んでたつもりが気付いたら密室ミステリになってるという違和感が面白かったです。
個人的には前半の2話が好きなのですが、後半2話はやや詰め込みすぎで話がぼやけてしまった印象。
以下各話の感想。



「影踏亭の怪談」

影踏亭という旅館の離れに泊まると深夜の2時37分に子供のような声で電話がかかってくるという。それを確かめようとした占い師は、鍵とお札の目張りにより密室となった離れで死体となって見つかった......。

旅館にまつわる怪談自体が本作の怪談パートの中でもとりわけ面白かった(怖かった)です。老人が何もないところに話しかけるくだりとかの、微妙な不可解さにリアリティがあって怖い。
ミステリとしては、今時そんなシンプルな、という密室トリックが好み。ただ、お札のくだりはまぁそんなこったろうと思ったし、そこから真相が見えやすくなってるのでなくても良かった気もしてしまいます......。



「朧トンネルの怪談」

首のない女たちが出るという噂のあるトンネルに動画撮影に訪れた大学生の男女。しかし、霊感の強い女子が不可解な状況で失踪してしまう。彼女の行方を探すために再びトンネルを訪れた彼らだが、視線の密室状態のトンネルの中で1人の男子が首を切断され......。

まずはトンネルの怪談と首斬りというショッキングな事件そのものが最高。やっぱホラーミステリはこういうおどろおどろしい雰囲気でなくっちゃ!怪談の、(ネタバレ→)このトンネルでは事故も事件も起きていないことが分かるところとか怖かったですね。
事件の方は、密室トリックそのものよりもなんでそんな状況になったのかが面白く、(ネタバレ→)失踪した女の子を見つけるために自殺するというあり得ない真相のあり得なさがそのまま怖さになってるのも凄味があって好き。



「ドロドロ坂の怪談」

呻木叫子の友人の息子が失踪した。駆けつけた呻木だったが、そこはかつて彼女がデビュー作に描いた怪異の起こる坂であった。折しも取材で居合わせた知人のライターとカメラマンに出会った呻木だが、そのカメラマンが密室の中で泥に塗れて死んでいて......。

前の2話の分かりやすさと比べてちょっとごちゃごちゃしてて、その分かりづらさがホラーとしては得体の知れなさになってるけど、ミステリーとしてはやや腑に落ちない感じになってる気がします。



「冷凍メロンの怪談」

警察に伝わる、死体のそばに冷凍メロンが置かれた変死事件の都市伝説。刑事がそれを調べていくうち、最初に冷凍メロンが登場した占い師の怪死事件に行き当たる。雪の密室で占い師が死に、周りの雪にはメロンの足跡のような小さな跡が残っていて......。

最終話でいきなりふざけてるみたいなタイトルになる捻りが面白い。
メインの占い師の事件のトリックとかは面白いけど、冷凍メロン事件との繋がりは微妙。
伏線回収ってほどでもないけどこれまでの話と少しずつ繋がりながら現れる恐怖は、怖すぎてこれまでの実話怪談の雰囲気から大きく逸れていて、個人的には実話風路線で最後まで行って欲しかった気もしつつ、とても怖くて良かったです。