偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

逢引き(1945)


夫と2人の子供を持つ主婦のローラ。ある日駅の待合で目にススが入ったのを居合わせた医師のアレックに取ってもらう。この出会いをきっかけに、互いに家庭を持つローラとアレックは惹かれ合うようになり、毎週木曜に逢引きを重ねるが......。

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私はあんま観てないけど大作映画が多いイメージのデヴィッド・リーン監督作。
しかし初期作品の本作は90分ないくらいの小ぢんまりとした作品。
内容も一般人の不倫ものという小さな物語ですが、これがめちゃくちゃ良かった。これは恋の季節に観てたらぶっ刺さってたわ。


物語は駅に煙を上げて列車が到着する場面から始まります。
この「駅」というのが本作の主な舞台になるんですね。
見知らぬ二人が出会い、逢引きを重ねる出会いの場所が駅。そして、儚い夢のような逢引きが終わると、お互いに逆方向の列車に乗って現実の家庭へと帰っていかなければならない......という一緒になれないことの象徴でもあります。
出会いの場面というのも目に入ったゴミを取ってもらうという冴えないものだし、主役の2人も美男美女ではなくどこにでもいそうな家庭に疲れた中年の男女。
駅の象徴的な使い方が寓話のような雰囲気を出しつつ、内容はびっくりするくらいリアルな、普通の人の不倫。
全編にわたって主人公ローラのモノローグが入っていて、それによって落ちてはいけない恋に落ちてしまった彼女の心の内が繊細に語られていくのがまた生々しいリアリティを出しています。強く共感も出来るけど、胸を引き裂かれるような気持ちが伝わってくる語り口はそれだけでサスペンスのようなヒリヒリするスリルすら感じさせます。
実際、筋立て自体はもう激シンプルなのに目が離せないくらい引き込まれてしまいますからね。
不倫だからってのもあるけど、そうじゃなくても恋ってのは幸せよりも断然苦しいものだよなぁ、と思い出させられました。

そんで、モノローグめちゃ入ってるから言葉で説明する小説みたいな映画ではありつつ、モノクロの映像も綺麗なのがまた素敵です。
夜の町の白黒だからこその艶やかな色合いだとか、ボートのシーンの滑稽みもありつつそれが切なさになる感じとか、駅や列車の異界感とか......。あと主人公の表情の演技とかも凄え。そういう映像の良さもあるからめちゃセリフで説明してても説明的に感じないのが良かった。

ラストは、分かってはいたけど冒頭に戻る構成が美しく、冒頭では「死んでほしい」という強い言葉を使うことに違和感を覚えたのが最後まで見ると「わかる死ねやこいつ!」くらいに見え方が変わってくるのも上手い。
そして、最後の最後のセリフがもうヤバいっすよね。いや〜あんなことあるかよ?とは思っちゃうけど、こんだけリアルに恋のしんどさを見せつけられておいて最後にファンタジーのような優しさを見せられるともう泣いちゃいますでしょ。

そんな感じで恋の美しさと辛さ、人間の愚かさと尊さがぎっしり詰まった超名作でした......。