偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

藤野恵美『初恋写真』感想


同じ角川文庫から出てる『ぼくの恋人』『わたしの嘘』『ふたりの文化祭』の高校生3部作に連なる、大学が舞台の青春恋愛小説。
1人共通する登場人物もいて、単行本版はタイトルも『きみの傷跡』と連なっていたのですが、文庫では改題されて一連の作品群であることが分かりづらくなっているのが残念。
私も本屋で見て「ふーん、新刊出てる」と思って買ってよくよく見たらあのシリーズに連なる作品やんけ!!!うおー!!!と時間差で喜ぶ羽目になってしまった。
内容的にも抽象的でありきたりな『初恋写真』より『きみの傷跡』の方が断然合ってると思うんだけど......。まぁ高校編/大学編で分けて今作から4文字で統一するのかも?
タイトルフェチなのでその辺が気になっちゃいましたが、内容は良かったです。




写真部に所属する大学2年生の星野は、中高男子校だったため女子と上手く話せず大学生になっても彼女が出来ないことに悩んでいた。そんなある日、星野は新歓で写真部に興味を持った新入生の花宮に一目惚れする。しかし、花宮は過去に性暴力の被害に遭ったことから男性に対して恐怖心を抱いていて......。

 
これまでの作品と異なり本作は大学生が主人公ですが、彼女いない歴=年齢どころか女友達もいないくらいの星野くんのキャラが純粋すぎて途中までは小学生の話かと思ってしまうような内容です(もちろんいい意味で)。
私も学生の頃は全く浮いた話もなく、女子との接点だけは一応あったけど良くて知り合い寄りの友達くらいだったので星野の童貞感に分かりみが深すぎて、彼のパートに書かれている全ての文字に共感してしまいました。
しかし男子校出身で女子に免疫がないとか言いながらなんだかんだイケメンすぎて同じ男としてはなんでやねん!と思う。思いやりと反省のできる男はかっこいい。私はどっちも出来ない......。

そして、花宮さんパートではそんな星野のぎこちなさに対する遠慮がちなツッコミが冴え渡ってグサグサ来ます。しかし花宮さんが非モテ男の理想を体現しすぎていて可愛すぎるな。
大学の部活の後輩......電車......浴衣......LINEやりとり........................なんだろう............なんかこう......ぼんやりとした光景が頭の中に浮かびかけているけれど、なぜだか上手く思い出せ


そんな感じで、前半は不器用な2人のもどかしい恋模様にイライラ......じゃなかった、キュンキュンするラブコメなんだけど、後半からは花宮さんの過去を引き金にセックスというものについても描かれていくのがこれまでの作品との大きな違いでしょうか。
重いテーマを、ターゲットとなる読者層であろう学生向けに重すぎず分かりやすく、しかし丁寧に描いていて、私も大学生の頃にこれを読んでいればあんなことにはならなかったのに......とか思っちゃいますよね。

本作で特に印象的だったのは、ハンバーグを星野くんが半分こにするシーン。
公平に二等分したつもりでも、花宮さんにはその量は多かったことに気付くところに、トライアル&エラーを繰り返しながら価値観を擦り合わせていく恋愛の最も難しい(そして素敵な)部分が詰まっていてめちゃくちゃ良かったです。

そして、嬉しいことにあとがきで次回作の構想についても書かれていて、この連作がこうやってどんどん世界を広げながら続いていくんだと思うと嬉しくなります。
しかも、本作でいい味出しつつあまり掘り下げられなかったあの人物が主人公らしいので、楽しみ。