偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ブリキの太鼓(1979)

1920〜40年代のポーランドの、第一次大戦後から始まり、やがてナチスドイツとソ連に占領されていく時代が舞台。
淫らで醜い大人たちが嫌になった主人公のオスカルが、3歳で成長することを止め、お気に入りのブリキの太鼓を叩き高い声でガラスを破りながら生きていく姿を描いた不思議な映画です。



ポーランドの歴史とか政治的なことは知らないのでその辺の深い含意みたいなのは全然分からんかったけど、それはおいといても面白かったです。

冒頭の、兵士に追われる男が焚き火をしてる女性のスカートの中に隠れてついでに中に出す場面、これが主人公の祖父母であり、ここから話が始まるのがなんか本作の雰囲気を端的に表してる感じがします。
性と生を美化することなく醜いところも描きつつ肯定する感じとか、エグめのユーモアとか。
映像もすげえ良いんですよね。生々しくキャラクターたちが生きているというリアリティはありつつ、シュールな白昼夢のような不思議な画ばっかりで強烈。

そしてなんと言っても主演のダーヴィット・ベネントさんが凄い。当時11歳なのでまぁ、3歳の役はちょっと無理あるやろ......とは思いつつ、そんでも11歳とは思えぬ怪演でびっくりしました。
ナレーションも彼が務めてるんですが声がすごい可愛くて、顔は可愛げもあるけど表情も含めてどこか老成したような不気味さもあって怖かった。超音波でガラス割る時の自分の正しさを確信してるような表情が1番怖い。

ストーリーは主人公のオスカルの大人の理屈に染まらない視点から激動の時代をある種突き放して描いていくものですが、その中でも前半は彼の母親が主役であり、後半は戦争と彼自身の初恋が軸となっていきます。
前半ではやっぱオスカルの母親アグネスというキャラクターが印象的。
母親であり女でもあり、強くもあり弱くもあり、知的でもあるけど主張できる立場でもなく、そしてただ生きている。モロな濡れ場もあるんだけどそれよりむしろ鰻のシーンで吐くところとか、その後喰いまくるところとかに強烈なエロさがあります。てゆーか鰻がエロい。
後半では彼女に代わってオスカルの初恋の相手であるマリアという少女が登場しますが彼女もまた強烈なインパクトを残します。16歳にして女であることの哀しみを植え付けられてしまっているからこそ溢れてしまう魅力が哀しくもありつつ惹かれてしまいます。いや身近にあんな娘がいたらそりゃ好きになるよなぁ......という感じ。

しかし大人たちは醜いけれどそれぞれ自分なりに懸命に生きてもいて、大人になりたくないなんて言ってもいつまでも保護してもらえるわけでもないし子供のままでわ恋人とも一緒になれへん。大人の醜さを描きながらもそれをどちらかというと肯定するような優しさがある作品でエモかったです。

あと全然文章にまとめられなかったけど、子供時代にオスカルがいじめられるシーンのいじめる女の子がめちゃ可愛かったのと、ヒトラーさんのシーンが印象的でした。