道尾ブーム第何弾かもう忘れたけどこれも未読だったので読みました。
- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2016/09/16
- メディア: 文庫
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本書は同じ集英社刊の『光媒の花』に連なる連作群像劇......といっても、内容には全く関係ありませんのでどちらから読んでも大丈夫です。
共通するのは、蝶が媒介する物語、ということ。
ただし、『光媒の花』は蝶が見守る物語たちだったのに対して、本書は"蝶の羽ばたき"によって乱反射する物語たち......と言うと本書の趣向がぼやっと伝わるかとは思いますが、そうです、そういう変わった構成の短編集なのです。
とはいえ、その構成は別に奇をてらったものでもトリッキーなものでもなく、ただ人生というものを描くための手段にすぎません。
最終話以外の、タイトルが揃っている5編では、それぞれで大切な人を失うことが描かれています。それは時には優しく、時には残酷だったりもしますが、この構成であることによって、それプラスどうしようもない理不尽さがより強く感じられ、1話読むごとに「はぁ......」とため息をつきたくなってしまいます。
各話についてさらっとだけ触れておくと......。
「やさしい風の道」は、第1話だからか後の短編たちと比べると語り口は軽めであっさり。しかし、それだけに少年の"クセ"がラストの光景とともに後を引いて心に残ります。はぁ......。
「つめたい夏の針」を読むと、本書の構成が分かってきます。前の話と対になっているようでもあり、男の子と女の子の差......などといってしまうと乱暴ですが、主人公たち2人の対比が哀しみを強調します。なんせファンタジーめいたところのある前話からの現実的なこのお話ですからね。はぁ......。
「きえない花の声」は、モチーフとなる曼珠沙華のインパクトが凄いです。光景として印象的なのはもちろん、美しくもグロテスクな曼珠沙華の花のイメージがそのまま物語の結末と重なるあたり、とても残酷です。はぁ......。
「たゆたう海の月」は、前話と対になるお話。ミステリー的な要素がやや入ってるのもそうだし、印象的なモチーフもどこか対照的。そして、結末の残酷さも結果の方向性は違いながらも根は同じところにあるという......。はぁ......。
ここまで2話ずつ対のようになっていましたが、「かそけき星の影」は、対ではないものの最終話と繋がる話。
ここまでの話よりは動きが少なく、とある女性と姉弟との会話劇のようになっているため、喪失感もストレートに伝わってくるここまでのピークのようなお話でもあります。そして......。
......そして、ここまでの5編とは少しだけズラされる最終話「鏡の花」。
この最終話を読み終えてみると、残酷さや理不尽さが綺麗事で無理矢理に覆されたりはしないままに、それでもどこか、淡すぎるけれどもそれだけに印象的な希望が見えました。だから、それまでの「はぁ......」とはまたちょっと違う「はぁ......」の余韻とともに本を閉じました。
光があれば影があり、影があるからこそ光が輝く、などと言ってしまえば陳腐ですが、しかしここまでの喪失の物語を読んできたからこそ、最後にこうして光を見せてくれる優しさが沁みました。
それでは最後にみなさんご一緒に!
......はぁ......。
(ネタバレ→)こんなに綺麗な場所は、ここにしかない。こんなに眩しい場所は、ここにしかない。