偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三津田信三『犯罪乱歩幻想』感想

三津田信三による乱歩トリビュートの5篇にリング、ウルトラQのトリビュートを追加した、7篇のトリビュート短編集。

乱歩トリビュートに関しては、タイトルでもじってある作品以外にもそれぞれ色んな乱歩作品の要素を組み込んだようなお話になっています。
作中でも言及されるように「理に落ちがち」な乱歩作品のオチに対して、各話でもう一歩踏み込むようなオチが用意されているのも面白かったです。
また、乱歩もの以外のも含めて全編に渡ってちょいちょい三津田信三ワールドの住人たちもカメオ出演したりしていて、ファンサービスの側面も大きい、ファンには嬉しい一冊になってます。

以下各話感想。



「屋根裏の同居者」

『屋根裏の散歩者』の舞台をボロアパートにして、何者かが屋根裏に棲みついている......という設定から現代的なサイコスリラーのような気持ち悪さも出してきてて面白いです。
起こる現象一つ一つは細かくて、主人公にも怖がる素振りがあまりないので怖いという感じではないですが、何が目的か分からない気持ち悪さというのは全編に通底しています。
(ネタバレ→)「乱歩作品は理に落ちがち」という持論を実践するかのように、一度理に落としておいてから怪異の存在を示唆してくる結末は、たしかに乱歩の作品でよくある「実は嘘でした夢でした芝居でした」のガッカリ感から逃れて怪奇なままの余韻を残してくれるので好きです。ただ、起こる出来事のインパクト自体は乱歩に分があるかなぁ、という感じ。




「赤過ぎる部屋」

『赤い部屋』のような秘密倶楽部が出てきますが、全編「あなた」(=読者である私)に語りかけてくる二人称の語り口が新鮮です。
全体のイメージとしてはたぶんRPGなんだと思います。二人称で読者が自ら話を進めていくような印象を与えているのもそうだし、赤い部屋までの道のりはダンジョンっぽいし、記号的過ぎるキャラクターもゲームのジョブっぽいし、何よりあのラストシーンは私は完全にゲーム画面で想像しちゃいました。
また、乱歩作品についてのトークはもはやディスってるとしか思えない、それも冗談ではなくてガチ批評になってて面白かったです。
ちなみにあのラストシーン、近年の某名作ホラー映画のリメイク作品を思い出したんだけど言うと両方のネタバレになるから伏せ字で失礼します。(ネタバレ→)あの赤いラストシーン、ルア・グァダニーノ版のサスペリアっぽくないですか?



「G坂の殺人事件」

作家志望の実質ニートの主人公が、隣家の殺人事件を目撃するお話!
著者自身を投影した......というか経歴までまんまの津田信六なる隣人が、主人公に逆恨みでディスられ、さらに何者かに殺されてしまうという、本書らしい遊び心が良いですね。
死体の状況が奇妙ではあるけどそんなに謎として魅力的じゃないのがアレなのと、やろうとしてることは見え見えなのがアレですが、しかしこの捻くれた発想は面白いと思います。
また、まさかのあの人の登場にも胸熱でしたね。死相学探偵でも名前だけは登場しましたけど、現代ものでちゃんと本人が登場するのは激レアな気がします。



夢遊病者の手」

酔狂でボロアパートに住み始めた青年が夢遊病の発作でアパート中のものを掴んで歩いてしまうお話!
ボロアパートのロケーションと夢遊病という題材の組み合わせが魅力的ですね。
ミステリとしても結構な大仕掛けで笑わせてもらえましたが、その後の「閉じていく」と表現したくなるような物語の収束の仕方がまた幻想的で素敵です。



「魔鏡と旅する男」

死に際に鏡を恐れた祖父。かつて一度だけ祖父に聞かされたのは、電車の中で出会った魔鏡と旅する男の物語だった......。

鏡にまつわる男の物語自体がいかにもで楽しく、ミステリ的な解決自体が怖さになってるのも良いですね。
語り手、祖父、"魔鏡と旅する男"という3世代の男たちが登場することで、継承と言いますか、連綿と受け継がれていくような印象が浮かび上がってくるのも面白いです。
谷口基による本書の解説は一編一編丁寧に書かれていて凄いんですけど、本作の考察なんかは特に凄くて正直私がこれ以上特に書くことはないと思っちゃいます。



「骸骨坊主の話」

「貞子」トリビュートの企画なんですが、内容はただの三津田信三怪談。
トリビュートの依頼に対してこういうやり方で受けちゃう捻くれ方が堪らなくカッコいいと思います。
『リング』を念頭に置いているので話の流れ自体はほぼ想像がついちゃうんですけど、予告されているようなものにも関わらずラストはやっばり恐ろしいですね。恐ろしいんだけど、『リング』トリビュートであることを思い出してぬけぬけとこんなことをやってのけてることにまた笑っちゃいます。



「影が来る」

これは『ウルトラQ』トリビュート。
原典を丸っきり全く知らないのですが、キャラクターや出てくるエピソードなど原典からそのまま持ってきてるらしく、本書で唯一のトリビュートらしいトリビュートとも言えそうです。
一方で、三津田ユニバースの人名地名も絡んできてファンには楽しいところ。両者のファンならもっと楽しめるんだろうな......。
話の内容はドッペルゲンガーものなんですが、そこに三津田さんらしいアレが絡んでくるのも面白く、オチもベタなのを避けて「そっちに行く?」と思うようなものでニヤッとしちゃいましたね。