偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

光田寿『魔神転生』感想

フォロワーのブブミツさんこと光田寿氏がこれまで書き溜めてきた様々なサブジャンルのミステリ短編を集め、表題作でそれらをまとめあげた連作?短編集。

全体に悪ノリが過ぎるやろみたいな内容でありつつもミステリへの愛(と憎しみ)がひしひしと伝わってくる作品集で、ミステリ初心者の私には全く分からない小ネタの数々も読んでて楽しかったです。



「マスターアップ」

ジャンルは「お仕事ミステリ」......になっていますが、ゲーム製作業界の闇を描いた怪奇幻想小説であって、こんなものを「お仕事ミステリ」として出してくる著者の悪趣味さに震えるしかねぇ(めっちゃ褒めてます)。
ゲームの背景やキャラクターの制作過程の分かりやすい描写はそれだけで面白く、それを利用した結末は私みたいな門外漢からすれば特殊設定SFミステリのような読み心地もありました。それでいて、作中にも明示されるように国内の某古典短編のオマージュ作品でもあるという温故知新っぷりも素敵。
わりと思ってた通りの展開ではありつつ、それでも凄まじいインパクトがあり、最後のシークエンス、特に最後の一文で悍ましくも軽やかに異界へと連れ去ってくれるのが美しい。
著者の悪趣味と美意識とが両立された一編です。



「疾走当時の服装は」

ジャンルは「バカミス」。
悪趣味といえばこれほど悪趣味な作品もなく、バカミスというよりはクソミス、てか糞スラップスティックコメディ。
群像劇にでもなりそうな冒頭から、本編に入ると悪い意味で(褒めてます)意外な展開に唖然とさせられるし、それがずっと続くのにも驚き。これのどこがミステリなんや!?と思っていると最後の怒涛のような伏線回収に笑わされます。いや、これはバカミスっつーか、作者が馬k



「メキシコ翡翠の謎」
ジャンルは「犯人当て」。
しかしアリバイ云々とかではなく、冒頭のクイーンの引用や「なぜ余命短い老人を殺したのか?」という謎からも分かる通りホワイダニットから読み解く犯人当てという趣向になってます。しかも、凶器がわざわざ殺人に向かない翡翠玉ときてるので、謎として魅力的すぎる。
解決編での消去法推理の流れも楽しいし、そっから解き明かされる犯人の正体も意外で、これはたしかに「犯人当て」だわ、と納得。
あと「クイーン」でアンジャッシュやるとことかわろた。



クトゥルフ陰陽帖」
ジャンルは「ホラーミステリ」。
ホラーミステリてか、伝奇ミステリてか、忍法帖
タイトル通り陰陽の力でクトゥルフ(苦祟不)の邪神と戦うというバトル漫画的な世界観ながら、描かれる事件は人間には殺せない邪神が小さな覗き穴しかない密室で殺されるという、密室ミステリとしてめちゃくちゃ魅力的なモノで最高。
その解決もバカミス一直線で最高(2話目よりこっちのが絶対バカミスやろw)。
個人的に本書で1番好きな短編です。



「消失感」
ジャンルは「ショートショート」。
変な博士が出てくる、ドラえもんかなんかそういう昔のSF漫画みたいな、もしくは星新一みたいな雰囲気の掌編。
タイムトラベルの話かと思ったら思わぬ消失現象が主題なのに驚き、怖さと滑稽さの共存する何とも言えん読後感も素敵。



「週刊雑誌なんかいらない」
ジャンルは「日常の謎」。
バイト先でキモいおっさんに絡まれる女子大生という、嫌な日常だな!て感じの日常なのが流石だし、真相のエゲツなさも全然日常じゃねえし、「日常の謎」である雑誌捨てる変な客の話はなんなら内輪ネタであんま本筋に関係ないしと色々めちゃくちゃなのが面白かった。しかしこんなん日常の謎じゃねえからな!



魔神転生
本書全体を締めくくる表題作は、連鎖式ミステリの最終話というよりは、ここまでに出てきたキャラクターたちが勢揃いする光田ユニバースみたいな感じ。名探偵クトゥルフSFアクションラブストーリー......みたいな全てごった煮の闇鍋みたいなお話。
著者が影響を受けたであろう某作家や某作家へのオマージュに加えて、某ハリウッド大作映画へのオマージュや某B級ホラー映画へのオマージュまでもが同時に行われるカオスっぷりに終盤なんか笑いが止まりませんでした。
また『迷路館の殺人』でヌいたという著者だからこその変な性的嗜好を感じさせる恋愛要素(なのか..................?)も面白く、色んな意味でインパクトが凄い、最終話に相応しい超大作でした。