偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

佐原ミズ『バス走る。』

ドラマ化されてタイトルは聞いたことある『マイガール』などの著者によるオムニバス短編集。

表題の通りバスを舞台にした「バス走る。」の5編に加え、7つの曜日を7つの色になぞらえる「ナナイロセカイ」の2編を併録した1冊。

絵が綺麗で、扉絵やフルカラーの作品も色付きで収録されていて、淡い水彩画のような色合いに癒されつつ切なくなりました。ただ、カラーじゃない部分は作風の割に結構デジタルな質感なのがちょっと残念。
お話は切なくも前向きな気持ちになれるものが多くどれもいい話だったんですが、いい話すぎてちょっとおじさんの妄想っぽさを感じてしまわなくもなかったです。


「空曲がり停留所」さくら町停留所」「忘れ名ヶ丘停留所」はバス停での出会いやら別れやらを描いた作品群。
自分がギリ20代なせいもあるのか、「空曲がり」「さくら町」の2編に関してはおっさんミーツガールの話なのでこれをエモいと思うおっさんになってはいけないという自制心vs俺もバス停で女子高生と友達になりたい気持ちでバトルが始まってしまい純粋に読めなかった......。
その点「忘れ名」はクリーンな(?)話で切なかった......(こういう学生時代の恋愛引き摺り話が好きなだけ)。

続く「天気読み」もバスのシリーズですがちょっと毛色が変わって、大人の恋愛を描いた作品で、切ないというより苦しいけど優しさもあり、これが1番好きかもしれん。

「ダドレアの路」はだいぶ毛色が変わるけどこれも一応「バス走る」連作のひとつで、全編フルカラーなのがちゃんとカラーで収録されているので絵の美しさだけでも絵本のように楽しめました。ストーリーも寓話的で面白い。

そして「めがね泥棒」「オトナの制服」は曜日を色に喩える「ナナイロセカイ」連作。
1週間を描いているので分量もそこそこ長くてじっくり楽しめるのがよかったです。どちらもあまりにももどかしい恋の話で読んでてだんだんイライラしてくるくらい。胸きゅん不足のおっさん的にはこんだけ濃い原液みたいな胸きゅんはきついわ......いや、とても良かったです。