偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

多島斗志之『二島縁起』感想

トクマの特選で復刊されると発表されたわりに今のところ1冊しか出てない多島斗志之。待ちくたびれてしまったので今回は以前の東京創元社によるミステリ系の作品を集めたコレクションからこの作品を読んでみました。そのうちトクマでも出そうなんだけどね。




5年前に都会から単身瀬戸内にやってきて海上タクシー〈ガル3号〉の運転手となった寺田。
ある夜、瀬戸内の五つの島々から数人ずつの客を拾ってとある島に輸送してほしいーーただし目的地は全員を拾うまで秘密ーーという依頼を受ける。
それは、風見島と潮見島という2つの島の因縁にまつわる事件の序章だった......。


著者の、同じく島を舞台にした『不思議島』が個人的には大好きなので、あちらに比べるとやや落ちる気はするものの、とても面白かったです。

まず海上タクシーという舞台設定がめちゃくちゃ良いです。
観光フェリー⛴とかなら乗ったことあっても、海上タクシーについては全く何も知らなかったので、冒頭はミステリの発端であると同時に、お仕事小説みたいな読み心地もありました。
主人公の寺田が数年前に都会からやってきた男なのもあってか現地でもちょっとまだ馴染んでないようなところもあり、やる気のない一匹狼的なキャラになってるのが魅力的です。
また、メインキャラである2人の女性も、あるいは寺田以上に魅力的。
同業者の〈竜王〉さんはまさに男まさりと言った感じのキャラ付けになっている一方、寺田の助手の弓さんは若いのもあってかもうちょいおとなしめで、でも芯の強さは持っている。当たり前のように「女なんかが船に乗れるか」という男尊女卑の時代・村社会にあって強くなった、そうならざるを得なかった女たちがカッコよくも哀しい。

......というような人間ドラマが丁寧に描かれていくだけで飽きないんですが、そこに謎解きが加わりつつ、クライマックスでは海が舞台の作品らしい会場のカーチェイスならぬ船チェイス🚢⛴みたいなアクション的見せ場もあって緩急の付け方も○。

ミステリとしては、まんまと騙されたのでミスリードの仕方が上手いなぁとは思う一方、真相そのものを示す伏線とかはそこまで効いていないので「そっちかぁ!」と膝を打つほどのサプライズにはなっていないかな、という感じ。
とはいえ、人間ドラマで、ミステリで、冒険小説で、〈二島縁起〉というタイトル通り二つの島の歴史を掘り起こす要素もあり、短い中に著者らしい要素がたっぷり詰まった良作でした。