偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

犬神家の一族(1976)

先日BS NHKで犬神家やってたのを観て、映像版として最も有名な本作をまた観たくなって2度目の鑑賞。



那須湖畔の豪邸犬神家で当主の犬神佐兵衛翁が他界した。数ヶ月後、佐兵衛翁の長女・松子が戦争に行って戦後行方不明だった息子の佐清を連れ帰ったことで、佐兵衛翁の遺言状が一族全員と私立探偵の金田一耕助の前で開封されることとなる。しかしその内容は異様なものであり、やがて遺産をめぐる連続殺人が勃発し......。

というわけで、横溝正史大先生の金田一耕助シリーズを、監督・市川崑、主演・石坂浩二(金田一耕助役)で映画化した第1作。
まぁ、横溝正史の長編ミステリ1冊を細かいアリバイとか登場人物の複雑な相関図とかまで全て映像化するのは土台無理な話で、そうするとどうしても本格推理的な要素は切り捨てて愛憎劇とかおどろおどろしい因習ホラー的な要素が前面に出てくるわけですが、そう割り切って観ればやっぱりめちゃくちゃおもしれーっすわ。

古い映画に対してよく「今観ても古びない」なんて形容しますが、本作はむしろ古びすぎていて逆にめちゃ新鮮っつーか。
当時本作がどれだけ真面目に受け取られていたのか知らんけど、今観ると完全に長えコントなんですよね。
登場人物全員キャラが濃いのは原作通りとして、三國連太郎演じる犬神佐兵衛翁が顔芸しながらお亡くなりになる冒頭からしてすでに絶対に笑ってはいけないご臨終って感じでじわるし、それ以降も「これが犬神の血なのか!?」と思うくらい一族全員ハイテンションのオーバーリアクションで「イヤアァァァ!!」とか絶叫しまくるから笑いが絶えない。哀しくおどろおどろしい愛憎劇なのにテンション高すぎてみんなすごく楽しそうにすら見えてきます。
しかし犬神家の血筋かと思ってたら金田一先生まで最初の死体を見て「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」とか言いながらうずくまる始末なので「いやいやお前、本陣殺人事件とか八つ墓村とか獄門島とか解決したんちゃうんか!?」と突っ込みたくなってしまいます。
しかしそんな金田一さんが可愛くて、他にも色々ドジっ子連発してくるからもう萌えキャラでしかねえ。
そして金田一さんが泊まるホテル()の女中さんも超可愛くて、金田一と彼女の掛け合い漫才だけで2時間観たいくらい良いキャラしてた。
あと「よし、わかった!」の警部さんはもちろん、鑑識の人とかも無駄にクセ強かったり、とにかくみんなクセ強すぎて面白くしかない。
映像もなんか急にコントラストバキバキのモノクロになったり残像エグすぎて何が起こってるか分からない歌舞伎になったりとめちゃくちゃな演出なんだけど、それが何故か超かっこいいという、なんかダリオ・アルジェント観てる時と似た気持ちで観てました。
もちろん散々ネタにされてるスケキヨマスクや池に刺さる🦵🦵もインパクト大で、100年後にもネタにされてるんだろうなとすら思わされる安心感がありました。

しかしそうは言っても物語の筋は原作にけっこう忠実なので、関係者全員が被害者でもあり加害者でもあるような、愛憎の坩堝の中に恐ろしい偶然がぶち込まれて起きてしまったような事件の哀しい余韻もしっかりありました。
また、the show must go onとでも言わんばかりに事件を止めない金田一先生もお約束というかもはや古典芸能に近いっすよね。最後まで死人たっぷり出して、事件そのものには何も関与せずふらりと現れては去っていく彼の儚い存在感がまた印象的でした。

そんな感じで、けっこうゲラゲラ笑いながら観てたけど最後だけなんか切なくて感情を揺さぶられたような感じになっちゃうすげえ変な映画っすよね。ミステリとしてはトリックの見せ方に意外性がないし、原作にある見立てのネタも捨てられてて残念だけど、アトラクションみたいな楽しさがあって最高な映像化作品でした。