偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三津田信三『そこに無い家に呼ばれる』感想

『どこの家にも怖いものはいる』『わざと忌み家を建てて住む』に続く幽霊屋敷シリーズ第3作。

お馴染みの三間坂さんが今回持ち込むのは、幽霊屋敷は幽霊屋敷でも幽霊の住む屋敷ではなく「屋敷そのものの幽霊」すなわち「そこに無い家」にまつわる3つの記録。

特に、1話目の「あの家に呼ばれる」がかなりの分量を占めていて、新社会人の青年が隣の空き地に建つ無いはずの家に恐れながらも引き寄せられていく様がじっくりと描かれていてかなり怖くておトイレに行けなくなりました。
序盤は不可解ではあるものの無視すれば実害もなくそんなに怖くない"隣家"がだんだんと語り手の心を捉えていく様子、そしてついに家に入るようになってしまうともう不可解で全然意味わからないのに禍々しいことだけは分かる現象の数々に見舞われてどんどん怖くなる緩急が見事。

続く「その家に入れない」「この家に囚われる」の2話は短く不可解なばかりのお話なんですが、その意味わからなさがやはり怖い。

そして、今回は三津田と三間坂による枠部分がよりメタな趣向を強めています。三津田信三のあらゆる過去作にも言及しながらあまりに不可解な記録たちになんとか解釈を付けようとしながら、しかし素手でうなぎを掴むようにするりと抜けられてしまう不気味さとのせめぎ合いがスリリング。
その果ての結末はちょっと遊びすぎな気もするけど、最後まで怖さと楽しさがみっしり詰まった良作でした。
しかしこれ、シリーズ最後のようにも次作への前振りのようにも受け取れる微妙なラインの作品なので、もしも次があるなら楽しみです......。