偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ハイテンション

2回目観ました。2回目でも口から心臓吐いたくらい緊迫感のエグいフランス産スプラッタホラーです。

ハイテンション [DVD]

ハイテンション [DVD]

製作年:2003年
監督:アレクサンドル・アジャ
出演:セシル・ドゥ・フランス、マイウェン・ル・ベスコ

☆4.0点

〈あらすじ〉
大学生のマリーは試験勉強のため親友のアレックスの実家へ泊まりに行く。その夜、家に殺人鬼が侵入し......。



......やっぱり雰囲気がいいですわ。冒頭の、まだ何も起きていない段階から、親友同士の2人が仲良く車で家へ向かうだけなのにもう隠微でシリアスな雰囲気が出てて「この映画はなんかヤバいゾ......」という気持ちにさせられるんですね。
その後も子供がはしゃいでたり主人公がオナニーしてたりするだけの場面でもいちいち「なんかヤバいゾ」という空気、具体的に何があるわけでもなく音や映像から漂って来る匂い(やけに静かで暗い......)が期待をそそりまして......。

そしていよいよ殺人鬼おじちゃんがビビーッ、ビビーッと呼び鈴を鳴らしますと、観客はおよそ1時間の呼吸我慢大会に強制参加させられます。

がしゃーんからのだーんからのずずずーぶしゃっ!ぴゅ〜〜っ!と、私のほとんどないような良心にすら具体的に描写するのを憚らせるような残虐な殺人シーンの連続!
そして、ものすごく悪いタイミングでそれを見てしまう主人公の視点を観客も共有させられるのがこの映画のエグいとこです。見たくもないのに見せられてしまう、このおぞましさよ!
この時点で既に最低ですよこの映画。

こうして友人以外の家族全員を惨殺した殺人鬼。しかし、友人宅に泊まりに来た主人公の存在には気づいていません。
実はここまではまだ序の口で、エグいのがこの後なんですよね。なんせ殺人鬼は主人公に気づいていないんだから、普通なら主人公は「こりゃラッキー♪」と逃げればいいところですが、なんと殺人鬼は親友を攫ってしまうのです!
こういう時のお約束として電話線は切られており、今から助けを呼びに行けば殺人鬼は友人を攫ってどこかへ逃げ去ってしまう......。こうした状況で、男勝りの主人公はなんと友人を助けるため殺人鬼を追いかけることを決意しちゃうのです!
というわけでここからが謂わば第2部。
親友を助けようとする主人公も自ら敵の手中に入らなければならず、「逃げれるし逃げたほうがいいけど逃げられない」というアンビバレントな不条理劇になる、この設定の作り方が天才的です。心臓吐きました。
追いかけながら隠れるという鬼ごっことかくれんぼを混ぜた上、罰ゲームは死という、これまさにHigh Tension、極度緊張(しなさい)ですね。
そして、徹底してシリアスな緊張感が続き、隠れながら追いかけた果てにある、あのラストがまためちゃくちゃいいんですよねぇ。

後でネタバレコーナーで詳しく書きますが、最後にきて恐怖の質がふわっと変容してよりおぞましい恐怖のズンドコに突き落とされる感じ......とでも言えばいいのか。しかしそこに一抹の切なさすら漂わせて、最後の最後までサブカル好みのするヤバい雰囲気を出しきっているのがクールですね。90分しかないのに見終わってどっと疲れますが、「はぁ、良い(嫌な)もん観たわぁ」という、それは満足感というよりは後悔に近い、でも後悔し尽くすことに満足するようなわけわからんどんよりした満足感を残してくれます。

とにかく嫌なものを見たい人、緊張したい人、血が好きな人、変態な人などにオススメしたい傑作フレンチホラーです。要はあんまりマトモな人にはオススメしません見ないでください。



では以下ネタバレで結末について......といっても考察とかじゃなくて一言叫びたいだけですけど......。






























良い百合!!!!!泣ける!!!!!

あい、すんません。最後の最後にきて、実は殺人鬼は主人公の別人格でした!という大どんでん返〜〜し!があるわけですね。正直最初に見たときは「は?」と思いましたが、今回の再鑑賞でようやく良さがじわじわと分かってきました。
たしかに、矛盾っぽく見える点は多々ありますが、この映画で描かれていること自体全て主人公の妄想、あるいはラストで檻に入れられた主人公の回想と取れば、そもそも視点が歪んでいるわけだから矛盾っぽいことも全て矛盾ではないとも言えるのではないでしょうか。それを言ったらおしまいな気もしますが......。
というか、そんな細けえことは気にせず「ぎゃー殺人鬼だコワイヨー!」「うひゃー!どんでん返しだ!!」「百合!!百合!!」と頭空っぽで楽しむのがB級ホラーの楽しみだと思います。
そういう意味では、本編はホラーとしてめっちゃ怖くて、ラストではどんでん返しと共に、実は決して叶うことのない想いが暴走するトラウマ恋愛映画だったという実態も現す、一粒で3度美味しい的な傑作だと思うんですけどねぇ。わりと評判悪いよね。どうでもいいけどちょっと悲しい......。