偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

Mr.Children『SOUNDTRACKS』(2020)

実を言うと私はMr.Childrenが大嫌いでありまして、ミスチルにいい曲なんか100曲くらいしかないと思ってるし、辛うじて全曲聴いたことある程度で全然詳しくもないんだけど、今度フォロワーのサラさんとミスチルの本作と『Q』について語る会があるのでしょうがなく書くことにしました。

2020年リリースの、現時点では最新アルバムとなる20枚目のアルバム。

前々作『Reflection』が23曲入りの超特大ボリュームだったのに対し、前作本作と10曲入りのコンパクトにまとまったアルバムになってます。
個人的にあまり長い作品は苦手な一方で、ミスチルの場合は好きな曲とそうじゃない曲の差が激しいので10曲入りだと好きなのは半分だけ......みたいなことになってしまいがちではあります。
とはいえどのアルバムにもやっぱり狂おしいほど好きな曲がいくつかずつは入ってるのがさすがで、本作でも「Birthday」「others」あたりはミスチルの曲の中でもかなり上位に入るくらい好きですね。

アルバム全体の雰囲気としては、いい意味で飾らないシンプルさと落ち着きのある内容になっていて、メンバーもいい加減おっさんなので無理に若ぶったり尖ったことをしてない印象。
コロナ禍1年目という時代の影響なのか、死を身近に感じたり強い孤独を感じさせるような歌も多く、しかしそれを包み込むような優しさももちろんあって、リスナーの私も大人になるにつれてじわじわと良さが染みるようになっていくアルバムなのかなと思います。
また、全体を通して一つの映画のような起承転結があってちゃんとアルバムとして作られてるのは好き。

ただ、やはり往年のミスチルファン......じゃなかった、ミスチルアンチとしては誰にも真似できないロマンチックな言い回しで綺麗事を歌いながら返す刀で的確に刺さる言葉で残酷な現実を突きつけるような歌詞の裏表のある鋭さがミスチルの魅力だったと思うので、本作はそういうキラーフレーズが(あえてか知らんけど)なくて良くも悪くもサウンドトラックとして聴けてしまうのがやっぱ物足りない気がしちゃいます。
とはいえ、昔はあんだけバカにしてたミスチルがなんだかんだで最近沁みるようになってきて、私も歳とった感が半端なく、最悪です。


1.DANCING SHOES

イントロからメロの部分まではなんだろう、「Monster」とかにちょっと近いような不穏さを感じさせるサウンドなんだけど、サビで一気に抑えめながらポジティブな曲調になりストリングスとかも入ってきてほどよい解放感があります。
それこそ歌詞の「両手の鎖をタンバリン代わりに」するくらいの。鎖を引きちぎって飛び立とう!ってほどではないくらいの解放感。

息を殺してその時を待っている
いつか俺にあの眩い光が当たるその時を

という歌い出しから、

群れを離れ歩いてくのもシンドい
良くも悪くも注目浴びれば
その分だけ叩かれる

とシビアな現実を歌いながら、

その両手に繋がれた鎖 タンバリン代わりにして
踊れるか? 転んだってまだステップを踏め!
無様な位がちょうど良い さぁ Do it, do it, do it, do it!!

というサビへ。鎖は両手に繋がれたままで、それでもそれをタンバリン代わりにして踊ろう!というメッセージがwithコロナをはじめ暗い時代だけどそれでも楽しく生きたいよねという現代の私たちの生活のモードにピタっとハマってじわじわとアツくなってきてしまいます。

また、

流行り廃りがあると百も承知で
そう あえて俺のやり方でいくんだって自分をけしかける

四半世紀やってりゃ色々ある
あちらを立てれば こちらは濡れずで破綻をきたしそうです

というゴミみたいな下ネタを言いつつも、長年第一線に立ち続けるバンドとしての矜持のようなものも見せつけながら2年ぶりの新作が始まります!とアルバムの開幕を告げるような素晴らしい1曲目でテンション上がります。


2.Brand new planet

からの、ミスチルが帰ってきたぜ!という感じの王道ポップソング。
優しくてキラキラと煌めいていながらちょっと切なさもある曲。イントロからしばらく歌とキーボードくらいのシンプルな音からのサビでガッとバンドが入ってくるのがカッコいいけどそこまでは実はそんなに好きじゃなくて。
そっから2番から四つ打ちっぽいダンサブルなリズムになるところで、「あ、なんかいいかも」ってなって、間奏のエフェクトかかった不思議な音のギターソロがカッコよくて「お、ええやん!」ってなる曲ですね。
ラスサビ前で一瞬重い音のギターが入ることで、ラスサビ転調というベタな展開をそんなにダサく感じさせないのも良い。

立ち止まったら そこで何か
終わってしまうって走り続けた
でも歩道橋の上 きらめく星々は
宇宙の大きさでそれを笑っていた

とmicroとmacroが対比される歌い出しからして、自分という小さな存在と見も知らぬ他人やこの世の中との繋がりを感じさせる歌詞への布石のようになってんのが巧い。

この手で飼い殺した
憧れを解放したい
消えかけの可能星を見つけに行こう
何処かでまた迷うだろう
でも今なら遅くはない
新しい「欲しい」まで もうすぐ

新しい「欲しい」までもうすぐ、というフレーズは、この消費社会で音楽もどんどん消費されていっててそれに加担してる後ろめたさを感じなくもなくて中でそれでもスピッツのことが大好きな私のことを肯定してくれるようで、ありがとうスピッツ!と思います。
あ、ミスチルの話ね。うん。
ミスチルのことを言うなら、「可能星」は普通にダサいし、「星」と「欲しい」をかけてるのもしょーもない(ベボベにも「星がほしい」という曲がありますがこちらは名曲)。


3.turn over?

アコギのストロークが軽快な、運命とか箒星あたりの仲間に入りそうな爽やかソング。
ベースラインやボンゴかコンガみたいな音が南国リゾートっぽさがあって気持ちいいです。歯切れのいいドラムも気持ちいい。特に悩みとかなさそうなノリの良さや終わり方の潔さがビートルズ初期っぽくて良いっすね。

歌詞は愚にもつかないラブソングです。

映画じゃ 躓いても立ち直っていくってストーリー
散々観たろう?だけど現実は違う
誰かしら泣いてんだよ 栄光と美談の裏で
だからさ よく考えてみて
機嫌直してよ

という、なんかいい感じのこと言ってるフリして結局いいわけしてるだけなのがいつの時代も変わらないミスチルって感じで好きだぜ。

面倒臭くて手に負えないな
この愛という名の不条理
懲り懲りだって思うけど キミ無しじゃ辛い

みたいな、なんか上から目線なのもイラッとくるだぜ。

叫びたいくらいだダーリン
この人生で最大の出会いと悟ったんだ
我が人生で最愛の人は
そう キミ一人
ただ一人

これは共感度100%!


4.君と重ねたモノローグ

なんかおじいちゃんが孫に語りかけるような優しい歌い方が若干キモいくらいだけど、その素敵な歌声を存分に聴かせるようにアレンジは抑えめで、でもサビでは控えめながらストリングスも入って押し付けがましくないエモさを出してくるあたり、これまでのミスチルのこういう曲より一歩引いてて落ち着いた印象で好き。
そんでも3'40ごろからの2段階で一気にぐわぁっと盛り上がるところは分かってても何回聴いても寒気がするくらい感動してしまいます(寒気じゃなくて鳥肌とか言え)。

歌詞はここまでの曲がいわば起承転結の「起」でわりとハッピーなものだったのに対して、ここからは「承」の位置付けで、喪失を描いたものに変わっていきます。

また会おう この道のどこかで
ありがとう この気持ち届くかな
果てしなく続くこの時間の中で
ほんの一瞬 たった一瞬
すれ違っただけだとしても
君は僕の永遠

一瞬の切なさと永遠の優しさがベタだけど心を締め付けるような歌詞です。
そんな切ない歌詞が終わって、また会うために駆け出していくようにアウトロがいきなりポップで軽快になってトレンドに逆行するように長く長く余韻を楽しませてくれるのが最高すぎる。この曲のアウトロはこのアルバム全体のハイライトの一つですね。


5.losstime

美しくもあまりに物哀しいアコギのアルペジオと共に囁くような声で歌われる短く儚くも印象的な一曲。

愛する者を看取った
ひとりの老婆は今日
エピローグ綴って
お迎えの時を待つ

老婆を主役にした客観的な視点の歌詞は次の「Documentaly film」への導入のようでもあり、喪失を切なくも優しく描いているのは前の曲とも地続き。大きな時間の流れを感じさせた前の曲からこの曲に繋がるのもエモいです。
ロスタイムというのはサッカー用語で、それを最愛の人を失った後の余生に重ねているんでしょう。
そこから都会へ行った子供たちとなかなか会えなかったりする孤独な老婆の姿が淡々と綴られていきますが、そこには子供たちを立派に巣立たせた人生への満足のようなものも感じられて、寂しいんだけどそれだけじゃなく幸福感すらある素晴らしい歌詞ですね。
しかし、桜井さん自身いつまで声が出るかどうか......みたいなことを最近よく言うようになったのでそういうことも連想して悲しくなります。

それと、アウトロを聴いて思ったんだけど、郷愁や寂寥感がビートルズの中期っぽい気がします。『ラバーソウル』あたりの。ノルウェジアンウッドとかミシェルとかインマイライフとかみたいな。


6.Documentary film

静かなピアノのイントロからそのままピアノだけを伴奏に歌い出すその最初の一言目が

今日は何も無かった
特別なことは何も

という怖いくらいの寂しさや虚無感を感じさせるものでぞっとしてしまいます。

枯れた花びらがテーブルを汚して
あらゆるものに「終わり」があることを
リアルに切り取ってしまうけれど
そこに紛れもない命が宿ってるから
君と見ていた
愛おしい命が

終わるからこそ美しく愛おしい......なんてありきたりな言い草のようですが、やはり50歳を超えたレジェンドバンドが歌うことで強烈な説得力を放っていて凄い。

誰の目にも触れないドキュメンタリーフィルムを 今日も独り回し続ける

サビでは虚無感に抗うようにストリングスも入って盛り上がりすぎないけど抑えた切実さを感じさせるメロディが歌われて胸が苦しくなります。
終わりの気配を遠くないところに感じながら、だからこそただ生きているというだけのことをこうやって切り取るのが凄い。
桜井さん本人のことのようでもありながらコロナ禍において生と死について考えざるを得なかった私たちみんなの歌にもなってるのがもうさすがでしかない。
私小説のようでありながら普遍的で時代の空気も切り取っているミスチルの歌詞の魅力の最新版みたいな素晴らしい曲です。


7.Birthday

喪失や死を歌った曲が3曲続いた後で今度は起承転結の「転」に当たる、「生」にフォーカスした曲が2曲続きます。
曲調もここで一転して開放的な、しかしここまでに歌われてきた死や喪失を背負った上で生を歌うような重さも伴ったものとなっていて、拳を突き上げたくなります。
イントロが短いんだけどアコギとストリングスでユニゾンしてて、始まるぞ!って感じで。
そっからがむしゃらに駆け出すようなリズムが気持ちいいなぁと思いながら聴いてたら、サビでは走ってた勢いのままふわっと浮いて気付いたら空を飛んでいたような高揚感に包まれてめちゃくちゃアガります。
ストリングスやコーラスのアレンジは壮大だけど、アコギが主体なので隣で弾き語りしてくれてるみたいな親しみも同時に感じる最高の曲です。

しばらくして気付いたんだ本物だって

という、途中から始まったみたいな歌い出しがインパクト大。そして続く

熱くなって冷やかしてとっちらかって
シャボン玉が食らったように はじけて消えんじゃない?
そう思って加速度を 緩めてきた

というところで、何か情熱の芽吹きのようなものはあるけれど失敗を恐れて踏み出せなかった気持ちが歌われ、その芽吹きが「本物」だったと説明されるのが文章上手いなと思う。そこから、

It's my birthday
消えない小さな炎を
ひとつひとつ増やしながら
心の火をそっと震わせて
何度だって 僕を繰り返すよ
そういつだって
It's my birthday

と、名曲「蘇生」を思わせるサビに辿り着くのはミスチルのシングルとしても映画主題歌としても満点では(映画見てないから知らんけど)。
そして、2番まではそんな感じで「僕」の決意のようなものが歌われるわけですが、間奏明けでは

It's your birthday
毎日が誰かの birthday
ひとりひとり その命を
讃えながら今日を祝いたい

と、パーソナルなところから一気に私たちみんなに開かれるのがエモすぎる。
ここに来て火の玉ストレートで生きていることを肯定する強いフレーズが出てきて泣けてきてしまいます。ここがこのアルバムの第二のハイライトだと思います。
そして歌が終わっても祝祭のように駆け上がっていくアウトロが素晴らしい余韻を残します。


8.others

お酒のCMでサビ(?)のワンフレーズだけ聴いてて、その時からえっちな歌だとは思ってたものの、まさか不倫の歌だとは......。
甘く儚く色っぽいサウンドと歌い方が本作の中では異色だし、こう言う感じの大人っぽくエロい曲は「ロザリータ」とか「Jewely」とかあったけど、それらに比べてこの曲はネガティブなニュアンスが無くて、ミスチルの全曲の中でも異色と言うか、新境地的な曲だと思います。
個人的にはこのアルバムで一番好きです。

君の指に触れ
くちびるに触れ
時間(とき)が止まった

という歌い出しの部分からしインパクト抜群で、実際CMではここだけしか流れてなかったにも関わらずめちゃくちゃ印象に残ってて「この曲いつ出るの?」と焦らされてましたからね。
ちなみにスピッツ草野マサムネがラジオで今年(2020年)の印象に残った曲としてこの部分をちょろっと弾き語りしてたけどめちゃくちゃ良かった。やっぱスピッツは最高だな。

何が起こったの?
しばらく何も考えたくない
窓の外の月を見てる

というのがモテる野郎の言い草でムカつくわよね。何が起こったの?くらいのノリでセックスなんか出来ねえよ......。

そんで、こっから「時間が止まった」瞬間から時が動き出して君と他人に戻っていく過程が描かれていって、タイトルが「others」なのが残酷なようでもあり、甘い夢のようでもあり......。

まるで近未来の映画のよう
アンドロイドが 感情なんかなく
ただ互いのエネルギーを 吸い合うように

この辺とかチョーエロいですね。
あと、彼の存在がめちゃくちゃ仄めかされるのもチョーエロい。

愛し愛されてたとしても
そう感じられるのは一瞬で
その一瞬を君は僕に分けてくれた

不倫の歌なんだけど、ここのフレーズに生の儚さとそれ故の美しさが現れていてアルバムのテーマにも沿っているのが凄い。

何が起こったの?
このまま何も考えたくない
25時の首都高に輝く
窓の外の月を見てる

君の部屋から見た月と、帰りのタクシーの窓から見た月。同じ月が出てる同じ夜なのにあの瞬間と1人帰宅する今との隔たりがエグくて、最高の終わり方です。
しかしこれ、帰って寝て起きた後で「あんまり覚えてないや」とか言ってそうですね。

そして、これはなんか後期ビートルズっぽいんですよね。レリビーとかロングアンドワインディングロード的な。
そんで、「turn over?」は初期、「losstime」は中期のビートルズっぽいと書きましたが、なんかこのアルバム自体がビートルズのキャリアをなぞってるような気もちょっとするんですよね。ちょうど、「Birthday」はホワイトアルバムだし......。まぁ牽強付会ですけど。


9.The song of praise

前の曲の長いアウトロから仕切り直すように歌始まりの、2曲目みたいな王道ポップチューン。
ピアノとかも入ってるけどわりとシンプルにバンドサウンドを聴かせてくれる曲で、このアルバムのクライマックスに相応しい優しい力強さがあります。

歌詞は、「Any」や「彩り」のように、夢に見たような場所じゃなくても今こうしてここで生きていることが尊い......と肯定してくれる歌。私も弱い人間で優しい言葉にはすぐほだされてしまうので、実はAnyと彩り好きなのです。だからこの曲の歌詞ももちろん好きなのです。

タイトルのpraiseとは称賛のこと。

僕に残されている
未来の可能性や時間があっても
実際 今の僕のままの方が
価値がある気がしてんだよ

誰もひとりじゃない
きっとどっかで繋がって
この世界を動かす小さな歯車

「社会の歯車」とか言うとネガティブな印象ですが、小さな歯車がお互いに噛み合って世界は動いているわけで。
私も別に今やりたいことをやって生きているわけじゃないけど、そんでも毎日それなりに頑張って生きてるのでこうやって讃えていただけると嬉しいですよね。

積み上げて また叩き壊して
今僕が立ってる居場所を
嫌いながら 愛していく
ここにある景色を讃えたい

10.memories

最後のこの曲は、アルバムタイトルに引っ掛けて喩えるならエンドロール。
バンドのメンバーは参加せず、ピアノとオーケストラに乗せて歌われる歌です。
サウンドはちょっとディズニー映画っぽいというか、いやディズニーあんま観たことないけど「星になんとか」とか「ホールワールドなんとか」みたいな雰囲気があります。

ねぇ誰か教えてよ
時計の針はどうして
ずっと止まっているのだろう
約束の時間の前で

失うことと生きることについて歌われてきたこのアルバムですが、最後はシンプルな片想いの歌であり、同時に人生というものへの問いかけのような歌でもあります。

固く目を瞑って 今 手繰り寄せる
どこまでも美しすぎる記憶
心臓を揺らして 鐘の音が聴こえる
僕だけが幕を下ろせないストーリー

切なすぎる......。

ねぇ誰か教えてよ
愛しい気持ちはどうして
こんなにも こんなにも
この心 惑わすのだろう?
いつの日も いつの日も

40で不惑とは言いますが50過ぎのおじちゃんがこうやって惑ってる様をアルバムの最後で歌ってくれるのが良いじゃないですか。そんな惑いも含めて人生をちょっとは愛せるようになる、そんな素敵なアルバムでした。なんだかんだ文句は言いつつもね。
あぁ、これもビートルズで例えるなら「Good Night」みたいな感じかなぁ。