偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

2022年に読んだ小説ベスト15ほか

それでは年末恒例の今年読んだ本ランキングです。
例年通り新作に限らず単純に私が今年読んだやつなのでご了承ください。

今年は仕事が当社比で忙しくなかったのと映画を観ずに本を読むイヤーにしてたので100冊くらい読めました。別にたくさん読めば偉いわけでもないけど、働き出してからは最多だったので結構満足してます。
おかげでけっこう満遍なく読めて、ミステリも非ミステリも、また小説以外の本も色々読めたなぁという感じ。
なので、まず小説ベスト15をやってから小説以外で印象的だった本も紹介します。

また、昨年末にlaunchされた徳間文庫の復刊レーベル「トクマの特選」の作品を、とある1人の作家を除いて全て読んでいます。そのためランキングにも特選から4作品がランクインしております。
気になってた作品、知らなかったけどめちゃ面白い作品、読めることになるとは思わなかった幻の作品までいろいろ復刊してくれて、さらに今後は復刊に止まらない活躍も期待できそうな最高の叢書なのでみんなもぜひ全部買って応援してくれよな!!!(めちゃ宣伝したので徳間書店からお小遣いもらいたい)

では以下ランキングです〜。



15.山田正紀『囮捜査官 北見志穂4 芝公園連続放火』

トクマの特選より。モジュラー形式のミステリであり刑事ものサスペンスでもあり、昭和という時代を切り取った社会派でもある最強シリーズより、1stシーズンのラストに位置付けられる本作を。
そして来年は2ndシーズンが開始されるらしい!楽しみ!


14.樋口修吉ジェームス山の李蘭』

トクマの特選より。そう長くない一冊の長編で1人の男の半生という長い時間を切り取り、その中で李蘭という女との純愛描き出した激エモ恋愛小説。これを「エモい」という売り出し方するとこがトクマの特選は凄いぞ!


13.矢野徹カムイの剣

トクマの特選より。和人とアイヌのハーフである主人公がどちらのコミュニティにも属せないまま家族を殺され孤独な復讐に乗り出す伝奇長編。主人公を待ち受ける運命のあまりの過酷さにページを捲る手が止められず、予想がつかない展開とキャラクターの魅力に痺れる最強のエンタメ作。


12.鵜林伸也『ネクスト・ギグ』

とあるバンドのボーカルがライブ中に殺される......という強烈な謎からはじまるロジカルなミステリ。でありつつ、リアルなバンドの描写とロックとは何かという語り尽くされてもまだ答えの出ない問いに挑む音楽青春小説でもある、エモすぎる傑作です。


11.笹沢左保『他殺岬』

トクマの特選より。一匹狼のライター天知が活躍するタイムリミットサスペンス。
伏線の巧さや真相の意外さが凄い!そこがちゃんと凄いのはもちろんなんですが、表紙のイラストを読後に見ることで、昭和な男女観で描かれた物語に令和のエモさが付与されているあたり、トクマの特選の仕掛け方が天才すぎて、これ読んだらトクマの特選信者にならざるを得ないよね。よろしくお願いします!


10.深緑野分『ベルリンは晴れているか』

第二次大戦前後のドイツが舞台。少女が主人公で、『戦争は女の顔をしていない』をエンタメ小説に落とし込んだかのような作品。戦争という状況下で起こる悲惨、過酷、悍ましい出来事を生々しく描きつつ、ユーモアを忘れず食べることを楽しみながら生きていこうとする意志も感じる物語。そして、ミステリとしての謎が物語を推進し、隠された真実が明かされることで物語を深めるあたりも素敵なミステリ小説です。


9.アレン・エスケンス『過ちの雨が止む』

『償いの雪が降る』に続くジョー・タルパートシリーズ2作目で、前作を読んでから読んだ方が断然良いと思うので、未読の方はまず前作をお勧めします。
本作では前作の後で素晴らしい人生を手にしたかに見えたジョーが父親らしき男の死を知ったことで再び事件に巻き込まれていくお話で、前作同様にベタな青春小説+サスペンスを素晴らしいクオリティでやってるだけの作品で、安定感抜群、シンプルにただただ面白いです。新ヒロインがめちゃ可愛い......。


8.高瀬隼子『おいしいご飯が食べられますように』

芥川賞受賞作でミーハーなので読んでみた。
とある職場に勤める3人の男女を描いたお話で、職場ならではの人間関係の気持ち悪い部分を食べ物のエピソードを軸に描く嫌な小説です。
リアルさがある一方、基本的に職場のことしか描かれないのにその職場がなんの会社なのかもあんまり詳しく描かれないのでどこか作りものめいているというか寓話っぽさもあって気持ち悪いです。
そして3人の誰に共感するか、誰が嫌いかを巡って読後に話し合いたくなること請け合いの、みんなで楽しめる小説でもあるよ!


7.トマス・H・クック『夜の記憶』

重い過去を抱えた作家がとある町の過去の事件の謎解きを依頼されることで、自身の過去の恐怖とも対峙することになる。クックらしい細密な心理描写で、一直線ではなく時間を跨ぎ似たようなところをぐるぐる周りながらもじわじわと真相に迫っていくのが良い。真相はあまりにもつらいものですが、後味が悪いだけの物語にしないところが優しいです。

6.夕木春央『方舟』

今年読んだ数少ない新刊ミステリ。
あまりにも話題になっていたので口コミ買いしてしまいましたが、噂に違わぬ傑作でした。
分かりやすくシンプルなロジックがまずは魅力的で、私みたいな論理苦手系アホミステリ読みでさえもロジックの面白さに痺れることができました。
そして、結末もこれまたシンプルにして破壊力抜群。
なんつーか、令和の世にこんだけシンプルに強度を持たせて広く届く作品が作れるんだということに感動しました。
 

5.梓崎優『叫びと祈り』

国内のミステリ短編集のベストは?みたいな話題でよくタイトルを見かける連作集。ジャーナリストの青年が主役で砂漠からロシアの修道院からジャングルの奥地など舞台となる国の振り幅の広さがまず魅力的。ミステリとしては、泡坂妻夫の血を受け継いでいる感じが濃厚の逆説の論理を、衝撃が最大限になるような見せ方で取り扱っていて、ミステリを読み慣れてても毎話毎話脳みそが吹っ飛ぶくらい驚かされました。


4.綿矢りさ『夢を与える』

子供モデルから女優になっていった少女の栄枯盛衰を描いた長編。綿矢作品の中ではあまり評判が良くなさそうですがめちゃ好きでした。「バリー・リンドン」とか「フォレスト・ガンプ」みたいな映画も好きなので。しんどさと前向きさのバランス匙加減が絶妙に好みなんだよなぁ。


3.辻村深月『傲慢と善良』

婚約者の失踪事件から婚活の光と影を描く長編。「婚活したことないし高みの見物だぜ〜」とか思ってたら、婚活を通じて描かれるのは人間関係全般における「傲慢」と「善良」の罪で、もちろん私にも当てはまるので普通に抉られました。とはいえこれもしんどさと前向きさのバランスが良くてただ嫌な気持ちでは終わらないのが素敵。


2.十市社『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』

教室で"幽霊"になってる少年が、彼のことが"見える"少女と出会う、ボーイミーツガール青春ミステリ。
著者のデビュー作であり、文章も構成も凝りすぎているようなところもありますが、その歪さも含めて青くエモい。客観的な評価ではなく主観的な思い入れとしてめちゃくちゃ好きな作品です。


1.十市社『滑らかな虹』

まさかのワンツーフィニッシュ......って俺が作ってるランキングだから八百長ですけど、とにかく今年は十市社の2長編がぶっ刺さった。
純粋に好みで言えば前作の方が偏愛なんだけど、完成度は格段に上がってます。
小学生5年生のとあるクラスで1年間行われるゲームの行方......と書くとデスゲームみたいですがそうではなく、ゲームを媒介に小学生同士の人間関係や感情の機微を繊細に描き出していく小説です。
変な例えですが、共感できる歌詞や短歌のように、身に覚えがあるけど注視せずにやがて忘れていたあの頃の小さな感情を掬い上げるような文章。各章の末尾や上巻の終わりでヒキを作るのも上手く、テーマの面でも『ゴースト≠ノイズ』をアップデートさせた進化作。文句なしの一位です!!!




というわけで、小説部門でした。

あと、今年は小説以外のものいろいろ読んだのでその中でも特に印象的だったのを3冊だけ紹介して終わります。


岡本真帆『水上バス浅草行き』

「ほんとうにわたしでいいの?ずぼらだし傘もこんなにたくさんあるし」という短歌でバズった若き歌人の1st歌集。
全然知らずにフォロワーに無理やり買わされて読んだらなんと著者がスピッツの大ファンらしく、直接スピッツについての歌がいくつかあって「はわわ〜!?」ってなっちゃいました。スピッツファンに悪い奴はいねえなと思いました。


國分功一郎『暇と退屈の倫理学

人類が抱える「暇と退屈」の正体を探るため、哲学だけでなく人類史、経済学、生物学など様々な分野を行き来する様は思考の冒険旅行のようであり、単純に読み物としてめちゃくちゃ面白かったです。
そして結論では現代社会をより良く生きるための贈り物まで頂けるんだから最高っすよ。


スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』

第二次大戦下で従軍したソ連の(ほぼ)女性500人超への聞き書きによる本。
戦争の悲惨さが生々しく語られる一方でその時代に青春を過ごした人はどうしても青春の思い出として美化せずにはいられないようなところもあり、それもまた恐ろしくなるようなリアルさ。正直しんどくて途中でやめようかと思ったし読み通すの時間かかったけど、読んで良かったです。