偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

綿矢りさ『手のひらの京』感想


おっとりしていつつ結婚に焦り始めている長女の綾香、男にモテてはっきりした性格の次女の羽依、大学院で研究をし東京での就職を夢見る三女の凛。
京都の町に暮らす三姉妹と両親の奥沢家の日常を描く群像劇。



あんまイメージなかったですが、綿矢先生、実は京都出身らしく、本作はそんな著者が初めて故郷の京都を舞台にした長編だそうです。
横浜生まれ名古屋育ちの私にとっては京都は憧れの地であるのと同時に畏怖の対象でもあり、森見登美彦新本格ミステリ作家たちの聖地として崇めてもいます。

観光地として伝統を守りながらも変化し続ける京都、住民だけが知る京都、イメージ通りの部分と、意外と名古屋と変わらないんだなって部分。そういった京都の素の魅力が、内も外も知る著者によって事細かに描かれていて、これがリアル京都なのか〜とそれだけでわくわくしてしまいました(知らんけど)。
観光客のいない夜の嵐山、家のベランダから見る五山送り火など、住んでいないと見られない京都の顔に憧れてしまいます。
一方で、我々他県民が「京都人とイギリス人は全員嫌味の使い手」とか思っちゃうイメージについて、そういう人はクラスに1人2人くらいしかいないと訂正しながらもその使い手が会社にいたり、よく言えば守られていて悪く言えば囚われているような京都という場所特有の磁場のようなものも描かれ、憧れのキラキラした面だけじゃない京都もまた味わえます。

京都の話ばっかりしちゃったけど、ストーリーとしては、結婚に焦る長女・綾香が年上の男とデートすることになる話、モテる次女・羽依がしょーもないイケメン彼氏と別れて実直そうな同僚と付き合おうとする話、京都の外に出て東京で働きたいと願う三女・凛の話が並行して描かれます。
良かったのが、3人とも同じくらいの比重で同じくらい魅力的に描かれていること。さらに脇役の宮尾さんや梅川くんや前原(こいつはマジで○んでほしい)や未来、そして三姉妹の両親もみんな印象的。
さらっとすぐ読み終えられちゃうんだけど、読み終わってももっと読んでいたくなるような愛着の湧く一冊でした。