偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

バーナデット ママは行方不明(2019)


かつて天才建築家として将来を嘱望されていたバーナデットだったが、ある事情で仕事を辞めて主婦になった。夫のエルジーは大手のIT企業に勤め、娘のビーとは友達のような関係を築いている彼女だったが、生来の人嫌いや南極への家族旅行の予定がストレスで鬱になってしまい......。

リチャード・リンクレイター監督の新作。
新作といっても、日本公開は最近ながら制作は2019年と少し前の作品。

天才でありながら主婦になってアウトプットを失ったことで鬱になっていく主人公バーナデットをケイト・ブランシェットが演じます。このバーナデットというキャラクターが本作のすべて。
人嫌いの変人であり、ユーモアと独創的なアイデアを持つ天才でもある彼女が、時に嫌味ったらしい金持ちに、時にお茶目で可愛く、また時には情熱的に描かれていて、そんな複雑な彼女のどんな顔も魅力的に演じるブランシェットさんが凄かった。
ストーリーには大きな起伏がないんだけど、彼女が隣人のママ友を「毒女」と呼んで日々熾烈な戦いをしていたり、遠くへ行こうとする娘を思って歌ったり、自分の今の状態に混乱したりしながら生きている姿を観ているだけでぐいぐい引き込まれてしまいます。

一方で脇を固めるキャラクターたちもまた魅力的。
夫のエルジーを演じるビリー・クラダップさんは『君が生きた証』の主人公の印象しかないんですが、本作では何とも言えずコミカルな表情で憎めない良い人な夫を演じていて「あの人だったのか!」と驚きました。
また娘のビーを演じるエマ・ネルソンさんは本作が映画デビュー作らしいですが、奇抜な母親とのバランスを取るように大人びたところと、真摯に迷い悩む少女の面とを演じ切っていて凄かった。
他にも隣人の"毒女"やその友達、南極で出会う女性たちもいい味出しすぎ。

そして、シンディー・ローパーの「タイム・アフター・タイム」がさらっと印象的な使い方をされていて良かった。子供の頃に親の車で聴いてて好きだった曲なので久々に聴いて懐かしくなったし歌詞を調べてみたら本作にぴったりでいい選曲だなと感心しました。

軽妙でありながらもメンタルヘルスの不調を扱ったヘビーな話でもあるんですが、終盤〜ラストがぶっちぎりに素敵で観終わった後は多幸感に包まれました。
主人公に感情移入しつつも、なんせ南極に旅行行くくらいの金持ちなので適度に他人事のおとぎ話として観られる抜け感も良かった。
エンディングに流れる映像もエモいんだけど、ただアレ実際にあるやつらしいので、そこは流用なんだ、みたいな気持ちにならなくもないかな......。