偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

汚名(1946)


ブラジルに隠れたナチの残党を探る任務を受けたFBIのエージェント・デヴリンは、父親がナチのスパイだったアリシアという女性に潜入捜査を頼む。最初はデヴリンに反発するアリシアだったが、2人はやがて恋仲となる。しかし、アリシアは調査対象のセバスチャンという男にハニートラップを仕掛けることになり......。



ヒッチコック監督による戦後間もなくの作品。

サスペンスでありつつメロドラマ色も強く、スパイであることと付き合ってることを両方隠してセバスチャンに近づくのには二重の意味でドキドキハラハラさせられます。
デヴリンとアリシアが好き合っているはずなのに任務によって隔たりが出来てしまうのが悲しい。恋人にハニトラ仕掛けさせるデヴリンがクソ野郎なのはまぁそうだけど、男としてはこれはまぁしょうがないよねぇと共感も出来ちゃうのがつらいところよね。
私が男だからか、昔のイケメンは良さがあんま分かんなかったりするけど昔の美女は今見ても綺麗だと思ってしまうのでイングリット・バーグマンさんの強烈な美しさにやられちゃいました。名前は知ってたけどほとんど見たことなかったわ。

一方で、敵キャラに当たるセバスチャン側の視点もちょいちょい挟まれるんだけど、彼も彼で今で言う毒親みたいな母親や組織の尻に敷かれて(?)いて、言ってしまえば本作で1番同情できるキャラな気さえします。
彼が純粋な悪党だったら単調すぎてつまらんかっただろうところを、こういう魅力的な人物にしてどっちが良いとか悪いとかはっきり断じれないようにしてくるあたり心憎いですね。

そして演出面でも見どころ満載。
冒頭のアリシアが目覚めるとデヴリンがいるシーンのシルエットになったりカメラが回転したりするところとか、終盤のコーヒーカップの映し方で「コーヒーカップ」以上の情報を伝えるやり口とかのサスペンス的演出がさすが。
そして、Wikipediaで調べたんだけど当時3秒以上のキスシーンが禁止されていた中で3秒未満のキスを何度も繰り返して長いキスシーンを撮ったらしく、そういう中学生が校則の抜け穴を見つけるみたいなやり口も尖ってて好きです。
もちろん、クライマックスのシーンのあの緊迫感もすごいし、からの引き延ばさずあっさり終わるところもかっこいい!

という感じで、ヒッチコックの後年の名作群に比べるとややオーソドックス(ふつー)な気はしちゃうものの今観ても充分面白い良作でした。
というか後年の名作群も子供の頃に見て以来なので見返したいところではあるな......。