偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

DOOR(1988)


専業主婦の靖子が夫と息子を会社と保育園に見送って家事をしているとセールスマンが部屋を訪れる。日々セールスの電話や訪問にうんざりしていた彼女はついセールスマンを追い返そうとして彼の指をドアで挟んでしまう。それから、落書きやイタ電などセールスマンによる嫌がらせが始まり......。



うーん、いやー、なんかめちゃくちゃ良かったです。
なんだろう、チョー個人的なことですが......。1988年の作品なので私が生まれる6年前ではありますが、なんかこう、画質といい音楽といい街並みとか建物とか部屋とかファッションの感じといい家庭の空気感といい幼稚園の頃の記憶とか、子供の頃にやってたテレビドラマとかの雰囲気を思い出してめちゃくちゃ懐かしい気分になりました。お風呂で50数えたりするのとか、プールとか、お金持ちの友達のマンションが坂の上の階段登ったとこにあるのとか、すごい分かりみが強くて......。
この時代の日本のこのくらいの低予算(=生活感のある)の映画を観ることがあんまないから新鮮に懐かしく感じてしまいました。トトロとかとは違うリアルノスタルジー

てのはまぁ内容とは全然関係ないんだけど、内容もまぁ面白かったです。
美しい主婦とイケメンセールスマンa.k.aストーカー男の攻防を描く粘着質なスリラーではあるんですが、絶妙にどっちにも感情移入させられちゃう感じとか良いっすよね。
主人公の主婦も、家に1人でいる心細さとか推しの強い勧誘の鬱陶しさとかに地味に精神をやられてる感じは分かるし。最近だとこういうセールスも電話も減ってきた(つーか家電がねえ)けど昔はよくイタ電とかあったなぁとか、私も押されると断れないタイプで押し売り苦手なので「追い返してやれ!」みたいなのもあるし。
でも、イケメンセールスマンさんの方の言い分も同じサラリーマンとして凄い分かるし、これはそりゃキレるのが普通な気さえするのでドア蹴るシーンとかかなり分かりみあるし、でも奥さん見たらあんなに綺麗だったらストーカーになっちゃうのもまぁ分かるし、つらいよね。
どっちにも肩入れしちゃうことで、主人公視点からはストーカーに付き纏われるスリラーだし、セールスマン視点からは破滅的な恋の話だしで、一粒で二度楽しめる感じ。

前半はじわじわと精神攻撃をしていく感じですが、後半の直接対決になるところから俄然面白い。
セールスマンが子供をダシにして脅しながらも子供に手を出す気はあんまなさそうでむしろ疑似お父さん的に遊んでるのが脅しなのかもしれんけど彼の願望のようでもあるのが切ない。
とある攻撃から一気にバトルになるんだけどこのバトルの泥臭さも最高っすよね。俯瞰の追いかけっことかシャイニングとかの外連味が最高だし、チェーンソーに対してしょぼい武器でかちゃかちゃ戦ってるのそれなんの攻撃やねんって感じで一生懸命なのになんか笑っちゃう。しかし戦い始めてからの主人公が一気にエロくなってドキドキしちゃう。スプラッタ描写も頑張ってるし良いね。
最後の方なんかもう何一つどういう意味なのかよく分からん展開すぎてめちゃくちゃ笑っちゃいました。なんやねんその演出!みたいなのがたくさん。

でも全体として、面白いとまでは言わないけどなんか嫌いになれないというかむしろ謎の愛着が湧いてしまう不思議な作品でした。
そういえば日本初の本格スプラッタと呼ばれる『死霊の罠』と同年なのでこれもスプラッタの先駆作なのかしらとも思ったり。