偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地(1975)


ブリュッセルのアパートに息子と2人で住む寡婦のジャンヌ・ディエルマン。家事をこなしながら朝は隣家の赤ん坊を預かり午後には家に客を取って売春をする日々を送っていたが......。


とある主婦の3日間を固定カメラ、BGMなし、ドラマチックな会話やストーリーなしでリアルかつ精緻に描いていく約200分の作品。
家で見たのもあって正直かったるく感じてしまい、それこそ家事をやりつつながら見しちゃったんだけど、そのかったるさ自体がもう作品の狙いでもあるのでしてやられたり。劇場で観てたらもっと没入できただろうと思うとちょっともったいない気がするのでいつか上映されたら観に行きたいな......。

冒頭からジャガイモの皮を剥くというおよそ映画のオープニングとは思えないシーンから始まり、そこからすぐに家に客を招いて売春をするシーンへ。
女性が押し付けられる家事や性の役割を生身でそのまま描いているのは今観てもハッとさせられるし、これが50年前の作品というのに驚かされます。

牛乳をコップに注いで一口飲んでからやっぱり別のコップにコーヒー注いでそこに牛乳を入れて飲むみたいな無駄な動作に「そういうことあるよね」みたいなリアルさを感じるし、赤ちゃんの鳴き声がめちゃくちゃ不快なのもなんか分かる感じ。

3日間の出来事を日々のルーティーンを通して描きつつ、その中で微妙に変化があって、特に3日目は色んなことが上手くいかない......という、変わり映えしないからこそ細かい変化が目に付いてじわじわと蓄積されていく感じが凄い。それまで抑えて抑えてきてたからこその結末が衝撃的になるのも凄くて、唐突なようでいて納得してしまいます。
衝撃的でありながらそれはほんの一瞬のカタルシスでしかなく、その後ますます閉塞感が募る感じをラストカットの長さが表しているようで忘れ難い終わり方でした。

なんか、子供の頃は外で働くより主婦のが楽そうとか思ってたけど、そして実際外で働くにはそれはそれでストレスがあるので比べられるものではないんだけど、こんな風に孤独に同じ日々を繰り返すのはなんかもはや地獄の暮らしだなと思いました。