偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

梶龍雄『龍神池の小さな死体』感想

「梶龍雄の復刊」なんてのは、ちょっと前まではあり得ないことを例えるジョークでしかなかったと思うのですが、我らがトクマの特選様様がついにやってくれました!ありがとう、トク魔くん!

本作は1979年刊の、カジタツの代表作として挙げられることも多い作品です。



「お前の弟は殺されたのだよ」
大学教授の智一は、死の床の母が言い残した言葉を受けて、疎開中の弟が亡くなった山奥の村を訪れるが......。

ミステリとしては、少年時代の弟の死の謎を大人になって追うというスリーピングマーダーものであり、さらに現在でも事件が起こって時を超えた何者かの思惑が見え隠れする......という結構。
そこに、冴えない童貞教授の主人公が2人の女性からモテちゃってどうすればいいの〜みたいなラブコメ要素もあって、読みやすい軽妙さが魅力です。


先に惜しかった点を書いておくと、やっぱストーリーがごちゃつきすぎってとこですかね。
過去の死と現在の事件、そして東京の大学と千葉の寒村という、時間と場所の交錯が、本作の場合は面白さというよりもまとまりのなさに思えてしまいます。どっちも弱いというか。
また、ラブコメ要素も楽しいことは楽しいんだけど、結局どっちつかずで、なんというか、ミステリ部分以外が全て中途半端に感じてしまいます。

ただ、ミステリ部分は流石の面白さ。
派手なトリックとかはないけど、とにかく伏線が質量共にすごいっす。
言われてみれば全ての描写が伏線ってくらいなんだけど、言われるまではどこがどう繋がるのかさっぱり分かんない。解決編を最初はふんふんと読んでいくんだけど、伏線が多すぎてだんだんと著者の執拗さのようなものまで感じてきたり。
全体がとあるキーワードで繋がってるっていう作り込みも好きですね。ミステリ特有の人工的な構造美があります。


という感じで、あまりにも伝説化しすぎていて無駄に期待しすぎた感はありますが、見どころも多い良作でした。