偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

BaseBallBear『DIARY KEY』の感想だよ!

はい、というわけで今回は珍しくベボベのアルバム感想です。
普段スピッツのアルバムの感想を書いてる時は、どうしても「10,000文字くらいは書かないと名盤に失礼」という思いがあって長くなりがちですが、好きなバンドはスピッツ以外にもいっぱいるんですよね。そういうバンドのアルバムについても、もっと気軽に安易に、1日で短くバーっと書き殴るくらいのノリで書いてもいいかな〜と思って書いてみました。
音楽の理論的な部分とか全く分かんないし、ベボベにもそんなには詳しくないので他のちゃんとしたファンの人の考察ほど面白いこと書けないですけど、自己満でやってみます。
(実を言うと、年末のアルバムランキング用に書いてたらちょっと長くなりすぎたから、というのもあります)。


DIARY KEY

DIARY KEY

  • DGP RECORDS
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コロナ禍の直前にリリースされた前作『C3』から約2年。コロナ禍の時代を見据え、今まで以上に深みを増した歌詞が印象的な「コンセプトアルバム」です。

先行シングルの「SYUUU」は初期のベボベを思わせる、いやそれ以上に軽やかで爽快なギターロックナンバーでしたが、その歌詞はコロナ禍の中で亡くなった盟友・津野米咲に宛てたものでした。
そしてこのアルバム全体のテーマというのが、死を見つめながら生きること。
ファーストアルバム『C』のモチーフが、死、そして詩、Sea、Sheでした。そこから視の『C2』、史の『C3』を経て、再び『C』のモチーフ(死、詩、海、彼女)に立ち返ったのが本作。
しかし、今回の"She"には津野米咲という特定の人物が当てはめられ、"死"にもリアルな重みが加わります。『C』のモチーフの再演でありつつ、確実に進化と深化を遂げた作品、という意味で、"C"の次は"D"IARY KEY、ということなのかな、と。
「もうこれまでのBとかCとか言ってた俺たちじゃないぜ!」的な(知らんけど)。

ちなみに私はダジャレが苦手なので気づきませんでしたが、一曲目でタイトル曲の「DIARY KEY」は「Dieありき」。そして最後の曲は「どLive」と掛かっているそうで。
人はいつか死ぬ、それでも、だからこそ、人生は尊い。そんなことを歌う人生讃歌......なんて言うとベタですが、1人の友人の死を経て、リアルな実感を込めつつあくまで軽やかにそれを歌ってくれるのが羽目もマスクも外せない我々に染みること染みること。

そして、本作では久しぶりの関根さんボーカル曲「A Happy New Yeah」が、ど真ん中に収録されています。
歌始まりなのもあって鮮烈な印象のある曲ですが、この曲の歌詞がまたいつにもましてストレート。悲しみの影を背負いつつも、「あなたに幸せたくさんありますように」と真摯に祈る歌詞。そして、最後の方の「生きてくれてありがとう」という一言が、そこだけ光っているように聴こえます。
これが小出くんが一番言いたかったことらしいし、私が一番言われたかったことでもあるし、私も同居人に対してそう思っているところでもあり、何度聴いても泣きそうになります。

そして、ラス前の「海へ」も良いですね。
海=Sea=死、といった、死へと向かっていく人生を示唆したようでもあり、しかし単純に海に行こう!という高揚感もあるような、本作の鍵を握る曲。
「SYUUU」の「もう会えないならさよならなんか言わなかった」を踏まえた、「さよならは言わなくていいよ なくしたものにもどこかでまた会えるから」がぶっ刺さります。
この曲がラス前にあることで、シングルとしてすでに聴いていたラストの「ドライブ」もより感慨深く聴こえて来る、アルバムマジックの誘因となる一曲です。



......と、KEYを握っていそうな2曲だけ先に紹介してしまいましたが、その他の曲についても一言ずつだけ書いとこうかな。



「DIARY KEY」

イントロからAメロまでギターが入らずにベースとドラムで突っ切るんだけど、このリズム隊の軽快さと重厚さ、楽しさと悲しさの入り混じったような複雑な味わいの音色が凄く良いっす。
市、Sea、詩という3つのCをBメロにぶっ込んどいてからのサビでCを超えてDへ跳躍するような「見つけて〜」という歌の伸びの爽快感!!!
「少しくらいの染みも許されないせいで 誰もが冗談を携え」という歌詞が、SNSの炎上とか、芸能人のスキャンダル報道とか(川谷絵音の話じゃないです)、そういうものへのしんどさを表していて、それに対して最後の最後に「なんてジョークさ」と回収する様は、「それってfor誰その1」の最後の「for you〜」のやり口にも似てて一曲目って感じします。
ちなみに歌詞にトゥモローネバーノウズが出て来るけど、ミスチルの方かな?



「プールサイダー」

初期の曲を思わせる、いや、それ以上かもしれないくらい爽快な、しかし突き抜けた爽やかさと呼ぶには暗い面も覗かせる感じの曲。力強く、頼もしさすら感じさせるドラムの音が気持ちよく、その上にギターロックらしいギターがあって縦方向に踊り出したくなっちゃいます。
突き抜け切らないのは歌詞のせいもあるのかな。「楽しもうよいまを」という劇的夏革命みたいな宣言の曲ではありながら、「静かに苦しんだ日々」を踏まえているから影の部分も残ります。この静かに苦しんだ日々ってのは、カーストの外れの方にいて真ん中にいる奴らへの憧憬の裏返しの軽蔑に身を焦がした学生時代と、コロナ禍のステイホームの日々とのダブルミーニングに聴こえます。
最後の「まだNo Time To Die」も泣けるし、「Henshin」の歌詞に出て来る三度公開延期の映画ってこれのことですよね?なんだかあの作品自体勝手にコロナの象徴みたいに感じてしまって......。



「動くベロ」

チャキチャキしたギターのカッティングに横にゆれたくなるリズム隊の主張が強い曲。なんだけど、『C2』のいくつかの曲のようなブラックミュージック感や、『光源』の「すべては君のせいで」みたいなシティポップ感はあんまり感じないのが新鮮です。最近はもうああいうオシャレミュージックが飽和してきた感もあるので、この曲に残る無骨さがむしろ新しい。
音に合わせて歌詞もリズム重視っぽさはあって、ついついよう動くベロよう動くベロよう動くベロよう動くベロと口ずさんでしまいます。
完全にえっちな歌なんだけど、そこにどこか言葉を使うということへの風刺のような側面もあるのが面白いです。
「無意味が気持ちいいわ」の実例として使われる無意味な言葉たちのチョイスの絶妙さが凄いと思います。意味と詩情を完全に廃しつつも、一瞬何か意味があるのかな?と思ってしまうくらいのラインで、なおかつ早口言葉みたいに言いづらいけど口に出すと気持ちいい感じ。完璧では。



「SYUUU」

アルバムでも随一の疾走感のある曲で、もはや途中から始まったのかって思うくらいいきなり疾走感のあるイントロからしてテンションがぶち上がってしまいます。
しかし、疾走(しっそう)は喪失(そうしつ)をひっくり返したものでもあり、歌詞は完全にあの人の死を描いたもの。
「サイダー」という、ベボベらしくもあり、赤い公園の曲名でもあるワードのチョイスが完璧だし、そこで「プールサイダー」に接続してくるあたりも上手いっすよね。
間奏やアウトロの激しいギターがとあるギタリストへのレクイエムのようでもあり、結局言いたいことは最後の「ばかやろう」という一言に集約されてて泣きそうになります。
あのバンドに実はそんなに思い入れがあったわけではないのだけど、それでも何曲か知ってたし年だって私とそんなに変わらないですから、自分の中でもかなり引きずってしまってたところはあったので......。



「henshin」

さらに「死」への視線を敷衍していくかのように、アフターコロナの日常でふと死を意識してしまう出来事を歌った曲。
全曲の疾走感から一転してミドルテンポでドラムとベースの音も重苦しめで、ちょっと気分が落ち込んじゃうような曲ではあります。
思えば、昔は返信が来ないくらいで「生きてる?」とは思わなかった気がします。身近な人を亡くしたことがない私でさえ、コロナ以降になってからは返信が来ないだけでも過剰なほど心配になったり、死の匂いを前よりは身近に感じるようになってしまった気がします。特に、Twitterのフォロワーなんかはよく合う人でも素性も知らなくて、ひとたびアカウントが消えたりしちゃえばそれでおしまいですからね......。
深読みというよりは印象程度ですけど、Henshin=変身、サイクルという歌詞もあり、どこか輪廻転生のようなイメージも感じてしまいます。「再会」というテーマもそこに掛かってくるような気もして、そうするともうこれはスピッツの「見っけ」じゃないですか。



「A HAPPY NEW YEAR」

上にも書いたので簡単に。
初聴時のびっくりと嬉しさといったら!
重ためな前曲から一気にこのテンションだからもう、ふぁっ!?ってなりました。
クリープのカオナシさんしかりアジカンのドブ声ファルセットさんしかり、ボーカルじゃないメンバーがたまに歌う曲が好きすぎて。嘘とワンダーランドとか、キャンバスライフとか最高っすよね。全然関係ない話になってしまった。
このアルバムで一番言いたいことを歌った曲でありながら、それを関根さんに歌わせているあたりの捻くれ方がいいと思います。


「悪い夏」

SYUUUが疾走感随一ですが、随二はこれ。
カウントから始まり、ギターとベースが同じリフを弾きながらドラムがダカダカいってるイントロからしてかっこいい。疾走感や軽快さと同時にダーティさや不穏さを感じさせるサウンドです。
サビの「まあああああああああ、あああああああああ」もめちゃ盛り上がるんだけどどこか気持ち悪さも感じさせるメロディ。

その音の印象と全く同じ印象の歌詞。
ハイテンションな感じなんだけど、多幸感ではなく狂気の方から来る楽しさ。「燃やす」「制止を気にしない」「中毒」というあたりからイメージされる誹謗中傷の姿。「どんな制止も気にするこたぁない」の制止が「生死」にも聴こえてしまうのが恐ろしいところ。そんな「世界/正解」には辿り着かないようにしたいところです。



「_touch」

チャキチャキしたカッティングギターと、ねっとりしたベースラインのギャップが不穏で気持ちいい。ところから、サビはかなりキャッチーでブイブイしてて踊りたくなっちゃいます。サビの終わりの「タッチ」の言い方がタッチというよりは完全にエッチなのに笑ってしまいます。
「どうでもよくなり病が 今夜も疼き出す」という分かりみのある暗めのフレーズから、しかし「タッチ」という言葉を過去の"ハイタッチ"、未来への"バトンタッチ"という形で繋げていきます。
そして最後の「そっと描いたあなたのタッチ」というのは、「消えない」というワードから、そういうことなのかな、と。



「生活PRISM feat.valknee」

ここから、アルバムの締めへと向けてエモさがどんどん増していきます。
たたらを踏むようなドラムの音と印象的なギターのリフからはじまり、もはやお家芸になってきたラップが、今回は変にカッコつけた感じもなく自然にそれこそ日記を書くみたいなテンションで披露してくれて、ラップなんだけどまったり聴けます。
そこに入ってくるvalkneeさんの特徴的な声がまったりしすぎない良いアクセントになってたり。
歌詞の面では、近年(コロナ禍よりも少し前から?)他のバンドとかでも「生活」を歌った歌詞が増えてきているような印象があり、印象だけなので分かんないですけど、この曲もその一つ。
小出とvalkneeさんの2人のラップによって、朝と夜、男と女、違う境遇にいる2人のなんてことない日常の風景が切り取られていきます。
「うごめく暮らし グロテスク しかし愛おしい」という部分がまさに今の私の感慨でもあり、自分もこのPrismの一部なのかと思うと悪くない気がします。
ヘブンズドアガールズ」を思わせる描写もありますが、あの歌詞とこれを比べると隔世の感がありますね。
24/7は調べたら24時間7日間=年中無休みたいなスラング?らしいです。



「海へ」

がっつりギターから始まる曲はこのアルバムでは実は珍しい気がします。焦燥感を掻き鳴らす、みたいないかにもギターロックらしいサウンドが、前曲の良い意味でやや気の抜けたラップの後だとよりヒリヒリ来ます。それこそ高校生の時にアジカンとかナンバガとか、それらを経由してベボベとかにハマった頃の気持ちを思い出しちゃうような。

そして歌詞の方は、生活への肯定を描いた前曲から、さらに喪失への肯定というか、受け入れを歌った曲です。
「さよならは言わなくていいよ 失くしたものにもどっかでまた会えるから」というフレーズがとにかく印象的。
「SYUUU」での「さよなら」の扱いと対応しつつ、「SYUUU」で「ばかやろう」と歌ったところから更に時を経て、無理矢理にでも前に進んでいくような、シンプルながら凄まじい歌詞なんですよね。
海というのは命が生まれて還る場所、というありがちな解釈でいいのか分かんないですけど、死と再会というテーマにこれほどしっくりくる舞台もないのでは。
また、「海へ」=Seaへ=Sheへ、と捉えるなら、この曲がこのアルバム全体の宛名書きみたいな意味も持つのかな、とも。



「ドライブ」

そして最後がこの曲。
最初に単体でシングルとして出た時には正直「普通だな」くらいの印象で、それから「SYUUU」とカップリングで両A面として出た時に死と生の対応で少し良さが染みてきて、今回アルバムに入ることでようやくちゃんと好きになったスルメ曲にしてアルバムマジック曲!
重ための、しかし優しさや暖かさを感じさせるバンドサウンドのミドルテンポなバラード。
歌詞もめちゃシンプルに生活の風景と生きることの肯定を描いています。
「スニーカー」「部屋着」「ゴミ出し」といった生活感溢れるワードを衒いなく入れるのも珍しいというか、捻りのなさが逆に清新な空気感を出してる気がします。
また、「部屋着」という言葉は「新呼吸」ではやや否定的な響きを持って使われていましたが、今回は肯定的。
ちょうど10年前、本作と同じコンセプトアルバムで、今回と同じく震災という大きな出来事に直面しての作品であった『新呼吸』からの進化......というよりは、肩の力が抜けて大人になった様を見せてくれて、私ももういい歳なので今はこういうのが心地いいんだよなぁと、『新呼吸』に自分を重ねていた頃を思い出しながら感慨に浸るなどしました。

と言った感じで、短く書くと言った割に長くなりましたがとりあえず1日でなんとか書き終えたので目標達成ということで。
とりあえず、一気にぐわーっとハマるというよりは生活のお供として時々、しかし定期的に聴き返す予感がするアルバムです。最高傑作
というよりは、最新の傑作という感じで、今が詰まってます。名盤。