偽物の映画館

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山田正紀『妖鳥(ハルピュイア)』感想

徳間文庫の新レーベル『トクマの特選』より、「山田正紀超絶ミステリコレクション」の1冊目として復刊された、幻想ミステリの大作です。



病院で人が死ぬ夜、黒い妖鳥が現れる......という噂のある聖バード病院で起こる、瀕死の患者の"自殺"、火事による焼死、空飛ぶ死体事件......。
刑事の刈谷は、入院中の先輩刑事の「女は天使か悪魔か?」という疑問の答えを探すために謎の看護婦を探すが、調査を進めるほど謎は深まってゆき......。

もう最高でした!

名前しか分からない2人の看護婦。
彼女らのどちらかは死に瀕した刑事を見て笑い、彼女らのどちらかは宿直のアルバイト医師を誘惑し、彼女らのどちらかは記憶を失い真っ暗な部屋に閉じ込められ、彼女らのどちらかは何もないところから起きた火事で焼け死んだ......?
主人公の刑事が2人の女を追っていくのを主軸にしつつ、奇妙な(非)密室自殺(殺人?)に空飛ぶ死体といった外連味溢れる事件が起こっていきます。
さらには、曼荼羅に傾倒する老婆、鴉の死骸を埋める美少年、醜く化粧した老人、妖鳥の伝説、ギリシャ神話......といった探偵小説らしい、それも、「奇書」と呼ばれるような探偵小説の匂いが濃密に漂うその雰囲気にもうクラクラと眩暈がするようで......。
円柱型の病院そのもの、中でもその「4階」が現実世界の理から外れた「異界」として描かれているのがもう最高で、クローズドサークルって意味ではなく、もうちょい抽象的な意味合いでの「閉鎖空間」になっていて、主人公も他の登場人物も読者もみんなが病院に取り込まれていくような感覚に陥ってしまってとっても幻想的!

調べれば調べるほどに謎が深まっていくばかりで、真相へのとっかかりがまるで見えてこない、否、そもそも真相などというものがあるのだろうか?というところまで混迷を深めていきます。
そうした謎また謎が、解決編に至って意外にも論理的に全て解かれるわけですが、それでもなお読後感は謎の中に取り残されるような感覚だったり。
それというのもやはり「女は天使か悪魔か?」という謎が作中で何度もリフレインされながら(ミステリとしての謎とは異なり)最後まで謎のままに終わるからでしょう。 
まぁ私ももう大人ので女も肉の塊にすぎないことは分かっていますが、それでもやっぱりこういう「女とは?」みたいなお話にはロマンを感じてしまうわけでありまして。
また、登場人物みんながそれぞれに妄執に取り憑かれている、その妄執が真相に繋がっているから謎が解かれることでより怖さを増す、というのもあるし、そうした人々の妄執が絡み合っていくことに運命的な壮大さを感じてしまうのも、不思議なまんまな読後感の原因だと思います。
正直なところ、個々の事件の物理的なトリックに関しては意外と普通というか、そんだけのことかと拍子抜けしてしまうところはありますが、心の闇が解かれる部分が面白く、まぁ陳腐な言い方にはなってしまいますが人の心が1番のミステリーとでも言いましょうか。いや、めちゃくちゃ面白かったし好みドンピシャです。


ちなみにこの山田正紀超絶ミステリコレクション、次回はおとり捜査官シリーズらしいんだけど、5冊出すのか合本とかなのか気になるところですね。楽しみです!