偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スピッツ『とげまる』今更感想

はい、スピッツ全作感想シリーズ第3回。
今回は、記念すべき、私が初めてリアタイで新作で自分のお金で買ったスピッツのアルバムである『とげまる』です!

とげまる

とげまる

初めて聴いたオリジナルアルバムは『さざなみ』、初めて(中古200円で)買ったのは『ハヤブサ』ですが、やっぱり当時高校1年生・お小遣い月5000円くらいの身分でアルバム1枚買うのはなかなか大きなお買い物。
しかも、当時はちょうどスピッツの既発のアルバムを揃え終わったあたりの一番スピッツ熱が高かった時期だけに、もう、発売前は人生で一番の「待ち遠しい」という感情だった気がしますね。
ちょうどこのアルバムはタイアップ曲が多かったり、発売前にCD屋で全曲ちょびっと試聴企画をやってたりしてましたからね。テレビから「ランチパック!」という声が聞こえた瞬間振り向いたり(「えにし」がタイアップ)、休みの日に電車で都会のCD屋に行って1時間くらい試聴したり(迷惑)してましたね。

初っ端からどうでもいい自分語り失礼しましたが、友達のいなかった高校時代の私にとって唯一の救い、いや信仰だったのがスピッツであり、その象徴がタイミング的にこのアルバムだったので思い入れが強いんですね。

......とは言いつつ、その当時めちゃくちゃ聴きすぎたせいで最近はむしろほとんど聴かなくなったアルバムでもあります......。
というのも、本作はCDより配信の時代が訪れつつある中で、アルバムとしてのまとまりよりも一曲一曲を主役にしようとして作ったアルバムなのでありまして。だから、全曲主力級であるのと同時に、通しで聴くとちょっと圧が強すぎて気後れしてしまう、いわばベストアルバムに近い聴き心地のアルバムな訳です。

とはいえ、その分一曲一曲に関してはまさに全曲シングルみたいなキャッチーさ。ディープなファンにはやや物足りなくとも、スピッツにハマり始めたくらいの人にオススメするにはちょうどいいアルバムですし、このアルバムで何が好きかで次に勧めるアルバムも変わってきそうな、布教にはちょうどいい1枚と言えそうです。

また、タイトルは丸い中にもトゲがあるというスピッツ自身を言い表した造語です。
この作品以降、『小さな生き物』『醒めない』と、スピッツ自身を言い換えたり、バンドの状態を表すセルフタイトル的なアルバムが増えたのもあって、個人的にはここからがスピッツの第4シーズンだと思ってます。第1〜3シーズンについてはいずれ......。

そして、アートワークもキャッチーなかわいさ!写真家のかくたみほさんが本作収録のシングルたちに引き続いてジャケ写を担当。日暮れの中でローソクたいて真っ直ぐ立ってる女の子の、闇が訪れる中でも希望を捨てないような温かみのあるジャケットで素敵です!

では、以下で全曲それぞれちょっとずつ。




1.ビギナー

アルバムの中からタイアップもついたことでいち早く先行配信され、その後シロクマと両A面シングル化もされた、いろんな意味で本作の切り込み隊長的1曲目。

力強いバンドサウンドのイントロで幕を開け、Aメロ1発目は歌詞を味わわせるように演奏はピアノ主体でマサムネの声の美しく澄んだ響きを聴かせ、そこからまた骨太バンドサウンドへと、アルバム1曲目らしい、でもスピッツとしてはちょっと珍しいドラマチックなオープニングになってます。

未来からの無邪気なメッセージ 少なくなったな

と、冒頭で秩序のない現代にドロップキックをかましておいてからの、

だけど追いかける 君に届くまで

と歌い上げる、ストレートな応援ソングになっててびっくり。ビギナーのまま、という言い回しからも、おっさんになっても初心忘るべからずみたいな、「まだまだ醒めないままで」みたいな、そんな力強さが感じられます。

そう、力強い。
初めてこの曲を聴いた時はまだ高校生だったので、こういう曲が沁みるということもそんなになく「メロディ綺麗やな〜(鼻ほじほじ)」みたいな聴き方してましたが、自分もついにおっさんへの道を歩み始めた今聴くとなかなか沁みますね。
そしてたぶんもっとおっさんになればもっと沁みてくるんでしょう。
私なんかは恥の多い生涯を送ってますが、せめて気持ちくらいはこの曲に恥じない歳の取り方をしたいもんです......。




2.探検隊

からの、アップテンポで軽快でちょっとダークな雰囲気のロックチューンです。
この曲はスピッツのセルフプロデュースらしいです。そのせいなのか、なかなか変な歌。
全体にリズム隊のフィーチャーされた音になっているので、探検に出かける前の高揚感と、少しの不穏さがあってタイトルにぴったり。
また、メロディはAメロがキャッチーなのにサビで音が下がって単調な(「リコリス」的な)感じになるのが面白いです。

歌詞の内容は探検について歌ったシンプルなものですが、その"探検"が何を指すのかはいろんな考え方ができそう。

アルバムのこの位置にあるので、通しで聴くならスピッツという探検隊がこれからとげまるという大冒険に出発するぜ!という開会宣言のように聞こえます。
でも、単体で聞くと、もしかしてこれエロい歌じゃね?という気もしてしまうのがスピッツクオリティ。
ただ、探検というのがとげまるにしろセックスにしろその不思議さとワクワクに満ちたステキな2曲目です。




3.シロクマ

前述の通り「ビギナー」との両A面で先行シングルとしてリリースされた曲です。
このシングル出た時も嬉しかったなぁ。なんせジャケ写は白い車のナンバープレートが4690(シロクマ)という二重のオヤジギャグがあしらわれためちゃくちゃ可愛い写真でしたからね。あのジャケ写だけでもうテンション上がるやん。
で、これメナードのCMにタイアップも付いてたので、CMが流れるたびに「はわわ〜!」と叫んでうるさがられました(ちなみに今は朝ドラを見るたびに「はわわ〜!」です)。

イントロのギターの音からしてもうスピッツ印。ポップとロックと可愛さと優しさと愛しさと切なさと心強さとYシャツと私がこの音色にぎゅっと詰まっています。

あわただしい毎日 ここはどこだ?
すごく疲れたシロクマです

と、ファンシーな皮を被って案外社会風刺のような始まり方なのも新鮮。
そこから愛らしくも気だるい感じのAメロBメロが続き、しかしサビの「まだ飛べるかな」の高音ですぅ〜っと景色が開けていくような、下ばかり見ていたけどふと空を見上げたような、そんな開放感がぐわーっと迫ってきます。
そして、印象的なのが、「まだ間に合うはず」「星になる少し前に」といったフレーズ。
星になるといえばもちろん死を連想させますが、この曲ではなんというか、死ぬまでにもっと大事なもののために時間を使おうぜ!みたいな、ひどく真っ当なメッセージが感じられます。
しかしそれでも説教臭くならないのはやっぱり「シロクマ」という気の抜けたモチーフのおかげでしょう。
高校生の時に初めて聴いた時もじーんと来ましたが、すごく疲れたおっさんに成り下がった今聴くとまた一層味わい深い曲です。たぶん30歳超えたらこれ聴いて泣きだすと思う。




4.恋する凡人

この曲の項に来て思い出しましたが、このアルバムが発売される直前の時期にスピッツはアルバムリリース前ツアーみたいなことをやっていて、そのツアーで新曲を披露してお客さんの反応を見てアルバムに反映させた......みたいなことを言ってました。
この曲は、そんな時期にリリースされたシングルの「つぐみ」にライブバージョンとして先に収録され、そのあとでアルバムに入ったというスピッツ全曲でも唯一の経歴を持つ曲なのです。
ライブ版で聴いた時はやっぱりライブの勢いもあってかバリバリに疾走感のあるロックチューンでしたが、アルバム版ではその勢いはやや減った代わりにロックでありながらめちゃくちゃポップなキラーチューンとして生まれ変わりました。

歌詞の内容は、初恋の爽やかな面を凝縮したようなものですが、その中にも「おかしくなっていたのはこちら」「君みたいないい匂いの人に生まれて初めて出会って」みたいなキモさがあるのはさすが。でもそれすらも初恋の力に変えて疾走するような、もう一度言いますがキラーチューンです。
私はこれ、『小さな生き物』の時のツアーで聴いたのですが、その時席が3階だったのもあってあんまり激しく盛り上がれなかったのですが、終盤でこの曲が来た時には思わず飛び跳ねて拳を突き上げてしまいましたね。それくらいの。
そして、歌詞の末尾に

これ以上は歌詞にできない

というメタ的な歌詞があるのですが、これはこれまでのスピッツにはない新機軸というか、今にして思えば「醒めない」とかにも繋がる自己言及のはじまりだったようにも思えます。
歌詞カードで、この部分の歌詞が掠れていってるのも芸が細かくて、高校生の時に聴き込みながらそのことを発見した時にスピッツのファンでよかったとしみじみ思いましたとさ。




5.つぐみ

そんな「恋する凡人」のライブ版が収録されたシングルの表題曲がこちら。
たしかアルバムの4ヶ月前に先行リリース第一弾として出たんですよね。その日、午前中に学校が終わって、帰りにCDを買って、親の車で買い物に行く時に初めて聴いた記憶があります。意外と覚えてるものね。

さて、曲についてはというと、これはもうめちゃくちゃシンプル!
ドラムの音から入るイントロの爽やかな高揚感、一転して一度この世界の厳しさを実感するように落ちるAメロから、サビへ向かってまた明るくて温かい気持ちが羽ばたいていくかのような、スピッツらしくもあり、しかしここまでのエヴァーグリーン感はやはり今作からの新機軸にも感じられます。
歌詞の方も、頭のサビでいきなり歌われる

「愛してる」
それだけじゃ足りないけど言わなくちゃ

という、この言葉だけを他の部分で補足説明するかのようなシンプルな強さを持っています。
初めて聴いた時は高1だったので、中学生の3年間片思いをしてて、結局何もできなかった女の子のことを思って聴いていたのですが、今改めて聴くと、これは恋人に対しての歌のように聞こえますし、シンプルで余白があるからこそその時の自分を投影できる、っていうところはスピッツの魅力ですよね。
ただ、そんでもひとつこの曲に私が答えを付けるなら、これはウェディングソングにぴったしだと思います。自分が結婚することがもし万が一あればこれを使いたい。
(でもindigo la Endの「風詠む季節」と毛皮のマリーズの「愛のテーマ」とフジファブの「ウェディングソング」とクイーンのフラッシュゴードンのやつに入ってるウェディングソングマーチも使うんだ!!)(とかいって自分の結婚式や葬式のBGMを考える遊び楽しいですよね)。

話が逸れましたが、最後にもう1つだけ。
「愛してる」という言葉でサビが始まるのは、スピッツファンならずともかの代表曲「チェリー」を思い出しますが、当時は「強くなれる気がしたよ」とか微妙に弱気なことを言ってたのが、今では「それだけじゃ足りないけど言わなくちゃ」とまで言い放つようになった、その「ほんとに強くなったんだねぇ......」という感じがとても良いです。




6.新月

からの、こちらは捉えどころのない不思議な曲。
イントロのピアノのリフや、バックでふぉーんって鳴ってるシンセの音が静謐で幻想的で狂気的な印象を与えます。
しかし、歌詞の始まりは

正気の世界が来る

月というのは狂気の象徴で、月がないなら正気の世界なのかも知れませんが、正気の世界って言い方が狂気じみてますよね。新月という言葉にしても、月がないことをわざわざ新月という単語にすることで月の存在を感じさせるような、そんな不思議な魅力がありますね。

ただ実際のところ歌詞の内容に関してはノーコメントにしておきたいくらいよく分かってないです。
なにかこう、前向きな決意を固めた歌のようにも聞こえるけど、スピッツのこういう曲だとどうしてもその決意が「死」へ向かうようにも思えるけど、それもまたスピッツへのイメージに引きずられてる感もあるし、結局よくわかんない不思議な歌、としか言えません。
ただ、幻想シューゲイザーな空気感だけで聴いてて気持ちのいい曲ではあるし、夜に散歩しながらスピッツ聞く時はけっこうこれ流しますね。だから好きじゃないわけじゃないんです。




7.花の写真

これも先行シングルの「つぐみ」のB面だったカントリー調な一曲。スピッツには珍しい一方で、相性はそりゃまぁばっちし。
イメージとしては日曜日のお昼みたいな、多幸感もありつつ終わりを予感する切なさもある曲です。まぁ私は土日仕事だから関係ないけど。
マンドリンの音が印象的なイントロからの、Aメロの途中でリズム隊が入ってくる時の「はじまるぞ!」感が最高っすね。うん、ベースとドラムのウキウキ感と、マンドリンの音のちょっと切なげな感じのバランスですよね、この日曜日感の正体は。

で歌詞も割とそんな感じで、明るいようでいて切ない、でも後味は爽やかという、スピッツらしい魅力に溢れています。
主人公が「遠くの君」に花の写真を送る話。
最初はこれ、死別の歌なのかなと思いましたが、「泣きそうな君が笑いますように」など、君が死んでるわけではなさそうなニュアンス。
となると、なんかこう、上京した彼女との遠距離恋愛みたいなイメージが湧いてきます。
それにしては、

いつかは終わりが来ることも 認めたくないけどわかってる
大げさにはしゃいでいても 鼻がツンとくる

と、ただの遠距離恋愛にしてはシリアスすぎるのが気になりますが......。
......なんて、じっくり考えていくとこんなシンプルな歌でも迷宮に迷い込んだ気分になっちゃいますね。
まぁ、好きなように解釈すればいいんですけどね。私はどうしても、このアルバム全体に初恋のあの人の思い出がちらつくからダメですね。白状すると、この曲もまた彼女のテーマでした。




8.幻のドラゴン

この曲はですね、初めてタイトル見たときにこう思ったのをよく覚えてますよ。
スピッツ、オワタ!
こればっかりはね、初めてこのタイトル見たらあまりのダサさに絶望するやろ。

でも、実際聴いてみると、このタイトルには深い意味があった......と私は思ってます。
そう、ズバリ幻のドラゴンとは、中二病のことなのです!!
......なんですが、サビの歌詞を見ると

燃えているのは 忘れかけてた 幻のドラゴン

とあります。そう、つまりこの曲は、大人になった主人公が、君に出会ってしまったことで年甲斐もなく中学生のような熱恋に落ちてしまった歌......なのではないかと私は思います。
そうとでも考えなきゃ、このダサいタイトルに説明がつかないし、そう考えれば逆にめちゃくちゃ上手いタイトルだと思いませんか?

曲調もそんな感じで、ダサかっこいいと言いますか、気恥ずかしいくらいにストレートな力強いロックです。なんかもうクイーンとかそういうイメージの。や、洋楽をクイーンしか知らないから名前出しただけでもっと他にいるのかもしれんけど......。

ちなみにこの曲、確かスタッドレスタイヤのCMソングになってたんですが、それにはめちゃくちゃ合ってました。「ザクザク坂を登る」って、CMのために書いたとしか思えない......。




9.TRABANT

「幻のドラゴン」が明るいストレートなロックなら、こっちはダークなストレートなロック。乾いた音色のギターのイントロからしてシビれますね。
耳慣れないタイトルは、ドイツ語で「衛星」「仲間」「随伴者」の意味を持ち、ドイツで1957年に作られた車の名前でもあるみたいです(ウィキペディア参照)。

さらにウィキペディア先生を見てたら、ベルリンの壁崩壊直後に、西ドイツの新しい車と東ドイツでまだ残ってたトラバント車の間でカルチャーショックが起きた、みたいなことが書いてありました。

それを踏まえると、「古い機械も泣いている」とか「高い柵を乗り越えて」とかのワードも、時代遅れとなってしまった車やベルリンの壁を思わせるところがありますね。
また、全体にディストピアっぽい歌詞の世界観も冷戦のイメージを彷彿とさせます。
個人的には、「グッバイ、レーニン!」の最初の方の主人公と彼女のシーンの切ない美しさなんかを思い出したり。

ただ、そういう雰囲気を秘めつつも、壁崩壊の壮大なドラマとかではなくて、卑小なダメ男のラブソングになってるのがスピッツらしいところ。例えばこう、低賃金ハードワーカーが高嶺の花子さんに恋をしちゃったような歌ですよね。違うバンドからいろいろ引用してすんませんけど。
いろいろ勇ましいことも言いつつ、

最高の旅立ちを今日も夢見ている

と終わる切なさがスピッツですね。




10.聞かせてよ

激しめの曲が続いた後の箸休め的ポジションの、ほのぼのとして印象に残らない曲......と思っていましたが、今回改めて聴いたらすごくいい曲ですね。

イントロの一番最初に入ってる謎の音がだんだんと近づいてくるところはなんだか眠りからゆっくりと目覚めるような心地良さがあります。
また序盤ではゆっくりと重たい音でどんどんいってるリズム隊が、終盤に向けて少〜しずつ激しくというか、跳ねるようなリズムに変わっていくところがドラマチックです。

歌詞は、

聞かせてよ 君の声で 僕は変わるから

というタイトルのフレーズを中心にした短めのもの。「臆病なこのままじゃ影にも届かない」というフレーズもあるように、臆病な"僕"が君の声を聞いて変わろうとする様を描いたシンプルでストレートなラブソングだと思います。
なにぶんシンプルすぎてまたどうとでも解釈できそうですが、私は告白をする前の日みたいなイメージで聞いてます。
臆病な僕だけど勇気を出して言わなきゃ!君が良い返事を聞かせてくれたら僕は変われるんだ!みたいな。

そういう、決意と予感を感じさせる歌詞だから、前述した演奏がだんだんとドラマチックになる演出も映えてますよね。
これは亀田効果なのかなんなのか、最近のスピッツはなんかこう、普通に上手えよ!みたいなことが多いですよね、はい......。




11.えにし

ヤマザキ・ランチパックのCMソングだった疾走感のあるポップロックチューン。
当時はCMの最初の「ランチパック!」という声を聴くと反射的に振り向いてましたね。「シロクマ」のとこでも似たこと書いたけど、まじ当時はスピッツが世界でしたから......。

さて、この曲ですが、当時はただのストレートなラブソングだと思っていたのですが、『醒めない』以降である今聴いてみると、
「醒めない」という曲のプロローグのようにも聞こえてきます。

というのも、草野マサムネがやってるラジオ番組のタイトルが「ロック大陸漫遊記」でして、ロック大陸は「醒めない」の、漫遊記はこの「えにし」の歌詞でそれぞれ使われているワードなのです。
そこから発送を飛ばすと、「ああ、この曲はスピッツのことなのかも」と気づかされました。

しかめ面で歩いた 汚れ犬の漫遊記

説明書に書いてないやり方だけで憧れに近づいて

などなど、「犬」なんてのはまさに「スピッツ」ですし、「憧れ」というのは「醒めない」でオマージュを捧げたデヴィッド・ボウイイギー・ポップ、或いはブルーハーツなんかを連想させますよね。

からの、

伝えたい言葉があふれそうなほどあった だけど愛しくて忘れちまった
はずかしい夢見て勢いで嘘もついた そして今君に出会えて良かった

というのが、そう考えてみるとリスナーに向けて、つまり私に向けて歌われてるんだ!と遅ればせながら気づいてキュンキュンさせられてしまいます。草野マサムネおそるべし。

ちなみに、サビ直前のドラムの「ず、でん!」っていう音が、こっからサビだぜ!みたいな高揚感を煽ってくれて地味に好きです。

あと、ラスサビの「そうなんだ」の言い方がやばくないですか?あれはずるいよ......。




12.若葉

シングル・タイアップの多いアルバムですが、これもそれ。本作収録曲では確か一番古いシングルで、『櫻の園』という映画の主題歌になっていました。見てないけど。......というか、スピッツが主題歌の映画とかドラマとかって一度もちゃんと見たことないと気付いて驚きました。

イントロから、なんと一番サビ終わりまでまるまるギターとベースだけの静かな弾き語り風スタイルで進む曲。こんだけ長いことドラム不在な曲ってあんまないっすよね。
でも、だからこそバンドサウンドになるところのエモの昂り方は凄いっす。
1番から2番へのブリッジ部分のベースとドラムの入り方が最高!
さらに、間奏はなかなかの高音でエモをぶち上げ、ラスサビでガーンとぶちかまして最後はまた静かに終わるという、めっちゃ綺麗な構成。

歌詞は「君」と離れ離れになってしまった主人公が君のことを思い出しながらも前へ進んでいくという、切なくも優しいお話。
3回あるサビはいずれも「思い出せる」という単語で始まるのですが、演奏のメリハリのおかげで同じ「思い出せる」でも、1番はしみじみと「思い出せる......」、2番はもうちょいハッとするような感じの「思い出せる!」、ラスサビでは忘れないことをしっかりと決意するように「思い出せる。」みたいに聴こえ方が違ってくるんですよね。

その上で、「ひとまず鍵をかけ」といて、最後の

今 君の知らない道を歩き始める

という言葉が、これまで聴いてきた歌詞の積み重ねによってとても沁みるんですよね。
ってゆーか、ベボベの「PERFECT BLUE」とかもそうだけど、君の知らないっていう言い回しが好きなんですよあたしゃ......。




13.どんどどん

スピッツの全曲の中でも屈指の名曲感を出してきた「若葉」の後は、スピッツ全曲でも屈指の遊び心溢れるこの曲。
なんせタイトルがどんどどん。聴く前は何のことやねんと思ってましたが、聴き始めた瞬間に、「あ、どんどどんじゃん」となって爆笑しました。
ぷしーっ、どんどどん!どどどどんどどん!どどどどんどどん!どどどどんどどん!

で、Aメロはまさかのお経風ラップ(笑)声にエフェクトまでかけてガチなやつです(笑)
待ちに待ってた眠らないトゥナイト(笑)天使もシラフではつらい(笑)
なんかもう、律儀なまでにカッチリ韻を踏んでる生真面目さが愛おしいです。こんなに遊んでるのに......。

そして、サビに入ると声はクリアに、メロディも美しくなって、まさに「悩みの時が明ける」感があります。

歌詞の内容については昔はただの言葉遊びだと思っていたのですが、今読んでみるとたぶんこれエロいやつだなと分かるようになったので高校生の頃はなんと純真無垢だったのだろうと驚きました。
冒頭の歌詞がまんまエロいのと、終盤の

かわいい君が笑ってる 悩みの時が明ける
やわらかな綿の上 初めての懐かしさ

ってとことかもすごい。完全に♡♡♡♡ですよね。初めての懐かしさっていう、ユニークでいて言い得て妙な言い回しが天才。
極め付けは、「終わらないで終わらないで」ですよ。
はぁ......。いつからこんな汚れちまったんだいあたしゃ......。




14.君は太陽

終わらないでと言ってた眠らないトゥナイトもやがて終わり、アルバムラストを飾るのはピーカン明るいこの曲。
シングルとしてリリースされた時には私はまだ中学生で、ちょうどラジオにはまっていたのでカウントダウン番組とかでこの曲が流れ流のを聴いて嬉しくなってた覚えがあります。
で、ドンピシャ中学生の時分ですので私にとっての太陽はもちろん初恋の君でありまして、だからこの曲に関しては未だに思春期の甘酸っぱい恋というイメージしか持てないでいます。
だから、解釈がどうこうも今回は難しいですね。

てなわけなので、いきなり変なとこから引用しますが、

こぼれ落ちそうな 美しくない涙
だけどキラッとなるシナリオ

というフレーズに、初恋というものの全てが詰まっているような気がしてしまうのです。

中3の夏。スピッツの新曲。文化祭までの間だけがあの子に頻繁に会える最後のチャンス。
こんな良い曲を聴いておきながら、それでもそのチャンスを棒に振ったから今の私があるわけなんですけどね。

と、アルバム感想の最後の最後で、変な思い入れから曲の内容にあんま触れないという蛮行を犯してしまいましたが、個人による音楽の感想なんてこういう思い出語りも込み込みでしょ?と開き直ってこの曲については筆を置かせていただきます。





というわけで、個人的に思い入れが強く、そのため一時期は毎日のように聴いてたからむしろ最近はあんま聴かなくなったという曰く付きのアルバム『とげまる』。
改めて聴いてみると、今のタームのスピッツの始まりを告げる無敵状態の最強ポップアルバムで、キャッチーにして何度聴いてもやっぱり沁みるし楽しい曲も多いし最高ですやん(ちなみにこの調子だと全作最高って言うわ)。
スピッツビギナーにもオススメしやすい最も外向きな名盤です!



さて、次はどのアルバムのこと書こうかしら......。一応今んとこハヤブサか名前をつけてやるで迷ってるんだけど......。