偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

シャーリィ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』感想


本棚探偵さんに猛プッシュされたのでとりあえず借りたけど海外モノって読み始めるまでに気合が要るんだよなぁ〜とか言いながらしばらく放置しておりました。申し訳ございません。ようやく読んだよ。


村外れの屋敷で病気の叔父と暮らすコンスタンスとメリキャットの姉妹。忌まわしい出来事によって他の家族はみんな死に、村人たちともほとんど隔絶された「お城」を従兄弟のチャーリーが訪れることで、危うかった均衡がついに崩れ......。


いやぁ、面白かったです。
18歳だけど精神年齢12歳くらいの少女メリキャットの語りがキュートにして不穏すぎて最高。
お城での丁寧な暮らしが可愛らしく描かれながら、同じテンションで町の人たちはみんな死ねばいいとか言い出すのが良すぎる。
冒頭こそちょっと読みづらかったものの、慣れてしまえば文章も読みやすく一気読みしてしまいました。

最初は姉が家族を毒殺したと噂し暴言を吐いてくる町の人々の悪意を悍ましく思うけどだんだんと語り手メリキャットの狂気も頭角を表してくるのが良いっすね。
特に従兄弟のチャーリーが現れてからの彼に対する仕打ちがじわじわと気持ち悪さと純粋すぎることの恐ろしさを醸し出してきて凄い......。
しかし狂気、と言ってもそれは価値観の違いでしかないとも言えて、金とか社会的な立場とかよりもお城の食器とか植物とか自分の生活のリズムを大切にしているだけであり、そのある種しっかり芯の通った信念のようなものを持っているメリキャットがだんだん羨ましいような気にもなってくるから不思議です。姉と2人だけの幸せな暮らしを守ろうとする彼女に対して不気味さと健気さを同時に感じるようなアンビバレントな感触がいたたまれなくて良い......。
クライマックスの町の人々とメリキャットの負のエネルギーが同時に爆発するような凄まじい描写にも唖然とさせられます。
どっちも気持ち悪いのにどっちにも共感できてしまうところが、ほんとに恐ろしい本です。甘くて美しくて毒々しくハッピーな忘れがたい物語でした......。