偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

筒井康隆『馬の首風雲録』感想

トクマの特選より、時局に沿って戦争をテーマに描かれた筒井康隆の第2長編の復刊です。


地球から遠く離れた馬の首星雲に住む犬に似た生物サチャ・ビ人。
地球からの影響を取り入れて急激に文明を進化させていったかれらは、ついに地球人の真似をして戦争をおっぱじめる。
戦争で利益を得る商人の"戦争婆さん"と4人の息子もやがてこの大戦に否応なく巻き込まれていき......。


1967年の作品。
当時はベトナム戦争の真っ只中。
不勉強でちゃんと分かってないんだけど、ベトナムが南北に分かれて戦争しててそこにアメリカが介入する、という流れがそのまま本作のサチャ・ビ人同士の星間戦争への地球人の介入という構図と重なっています。また最後の1行にも現実で起こっている戦争とのリンクが感じられますね。
そんな本作が50年以上の時を経てウクライナ戦争の続く現在に復刊されたというわけで、どうしても現実の戦争を頭の片隅にチラつかせながら読まざるを得ませんでした。

とはいえ、本作はまずエンタメ小説としてめちゃくちゃ面白いんですよね。
1ページ目からドブサラダだのブチャランだのブルハンハルドゥンナ長銃だのと怒涛の奇抜なカタカナ固有名詞で読むのを諦めそうになりますが、ある程度慣れてくるまで読み続ければあとはどんどん面白くなっていきます。

戦争がどんなに面白いもんか、若え奴らにもっと教えてやらにゃいけませんな!

中途半端に戦争否定なんか謳おうものなら、ますます戦争礼賛者が増える一方なんだ

結局おれたちはいついかなる時でも戦争が好きだからこそ自分たちを進化させてきた。

すべての人間は心の中に戦争主義者になる可能性を持っているんだ

確かに、本作の山場となる場面を読んで興奮しないかと言われればそんなことはないわけで......。星間を移動しながら命懸けでドンパチする様には思わず「うおおぉぉぉ!!!」と思ってしまうわけで......。
平成生まれの私にはもちろん戦争体験が皆無ですが、小学生の時に『はだしのゲン』を読んで以来反戦主義者になりました。
しかし戦争をやりたい奴ら、戦争で得をする奴らがいるということ、『スターシップトゥルーパーズ』や『地獄の黙示録』の朝ナパーム大佐のように、現場にいたら案外楽しんでしまうのかもというのも本書を読んで思い知らされました。

戦争には格好良さもあるから怖いんだ

本作で描かれている戦争のカッコ良さや楽しさというものも自覚しておかねば、NO WARも唱えてるだけのお題目になってしまうのかな、なんてことを考えさせられる作品でした。
もちろん、あえて戦争の楽しい面とかを描くことで問題意識を揺さぶる形の反戦小説として読めるので不謹慎には感じないというか、最近はこういう「あえて」みたいなのが通じにくくなってる気がして寂しいですね。