偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

三津田信三『白魔の塔』感想

『黒面の狐』に続く物理波矢多シリーズ第2作。

前作の後、炭鉱を辞めた物理波矢多は同じく日本の戦後復興の礎として重要な仕事である灯台守になります。
しかし、灯台守として2番目となる灯台に赴任する道中で奇妙な出来事に見舞われ......というお話です。


前作は刀城言耶シリーズに近いお話を、炭鉱という舞台と言耶のキャラクターが噛み合わないために新シリーズを立ち上げてやってみた、という感がなきにしもあらずでした。
しかし今作はミステリというよりは怪談に近く、刀城言耶シリーズとは一線を画す独自の展開になっていて面白かったです。

まず冒頭では灯台というものについての基礎的な解説があって、基礎的なとはいいつつも近所に海すらない私からしたら全く知らなかった・勝手に違うイメージを持っていたことばかりで普通に勉強になりました。

その辺の説明パートはどうしてもちょっと読みづらさがありますが、その後いよいよ物理波矢多が赴任先の灯台へと徒歩で向かう場面からは思いっきりいつもの三津田怪談のテイストになって、そこに珍しくえっちな場面も加わったりしてぐいぐい読まされます。
そして、本作に関しては設定やあらすじから想像するのと全然違うお話になるところが魅力なのでそれ以降のことはあんま書けないんですけど、とにかく残りのページ数がかなり短くなってきても一向に話に収拾がつく感じがしなくて、どうなっちゃうんだろうと思っていると思わぬ真相が......という感じ。
この真相を導くために伏線がバリバリに張られているのはいつもの三津田ミステリ長編ですが、真相の方向性が異色で。
例えるなら刀城言耶シリーズにおける『幽女の如き〜』みたいに「異色作」って感じがして新鮮な気持ちで読み終えられました。
とにかく何を書いてもネタバレとまではいかずとも興を削ぐ形になってしまうのでこれくらいしか書けませんがめちゃ面白かったです。

あえて言うなら、むしろお話として面白すぎて灯台という舞台が思ってたよりは話に絡んでこないな......というのが唯一文句を付けられそうなところですかね。舞台設定に凝ったシリーズだけにそこはやや残念でした。

そして次作は「闇市」が舞台ということで、炭鉱や灯台に比べると開かれた空間ではあると思うんですがその中でどんなお話が繰り広げられるのか楽しみです。