偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

町田洋『夜とコンクリート』感想

フォロワーが好きって言ってたので気になってた漫画の短編集。

白が多く極度にデフォルメされた絵柄は無機質さと暖かさを同時に感じさせるものでとても良い。
上手く言えないけど、私たち世代が子供の頃を思い出す時そこにはゲームボーイニンテンドーDSがあるんだけど、そーゆーけん玉とか竹とんぼに比べると味気なく無機質なおもちゃであっても私たちにはちゃんと懐かしい......というその懐かしさに近いような感覚の絵柄だと思う。そしてニンテンドーDSを思い出す時でもその背景には富士山公園の富士山の上に寝そべって見る青空があったりして、そんな平成生まれのノスタルジーを具現化したような漫画だと思った。

4編が収録された短編集なんだけど、最初と最後の話は短くて、冬の話で、大人が主人公。対して間の2編は長めで、夏休みの話で、子どもや若者が主人公。
私もどうしても子どもや学生の頃の思い出というとなんか夏を連想してしまって、夏休みに毎日いろんな友達と公園で遊び回ってたことや、部活で壁画を描いたり映画を撮ったり、夏の合宿で失恋したショックでヤケ酒飲んで死にそうになったりした思い出が蘇ってきました。
そんな夏の儚い美しさを描きながらも、冬の話では大人になって分かる冬の澄んだ空気の美しさや、過ぎ去ってしまった夏の記憶を大切にして生きていく様が描かれていて優しい。
無機質な現実と夏の秘密の対比を描くことで無機質な現実を生きる力を少しもらえるような良い作品でした。

各話少しだけ感想。


「夜とコンクリート
「建物もね 眠るんです」
一期一会のちょっと不思議なシチュエーションでお膳立てされることでMAX輝く清澄な冬の朝の美しさが素晴らしい。


「夏休みの町」
大学生の男女3人が過ごす、たらっとした夏休み。彼らの過ごす無為な日々の心地よさに強烈な懐かしさと嫉妬を感じます。もはや休めて年に数回3連休がいいとこなので、仕事辞めて人生の夏休みに突入したい気持ちにすらなる。
しかし、彼らも大戦中に異空間に消えた友人を探す老人と出会うことで無駄で心地よい夏休みではいられなくなっていくのが切ない。
夏休みは逃げ場だけどいつかは逃げてばかりもいられなくなる。でも時には逃げるのも必要だし、いつだって夏休めると思えばなんとかやっていける気がする。


「青いサイダー」
内向的な少女とイマジナリーフレンドの話なんだけど、そのイマジナリーフレンドが島🏝️の「シマさん」なのが凄い。
子供特有の親とかへの妙な苛立ちとか、ちょっとした冒険心とか、そういうものを追体験できてうわぁぁめっちゃ分かるぅぅ!と思いつつ、大人が読むと母親の気持ちも分かって板挟みみたいな気分になる。
親の知らないところで近所のおっちゃんと交流するところとか、まぁ危ないからやめとき、とも思っちゃうけど子供の頃ってなんかそういうことあったよなぁと思う。
大人になんかなりたくない主人公がちょっと大人になる、暖かくも切ねえ名作です。


発泡酒
最後はたった7ページの話で、冬を舞台に夏を思い出したり、大人になったけどどこか大人になれていなかったりと本書のテーマを反復するような一編。
最後にこれがくると、他の話ももっかい読み返したくなってしまう、ニクい収録順になってて、これがあることで本書全体が独立した短編集でありながらコンセプトアルバム的な良さが出てくるのが最高です。