偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山田正紀『おとり捜査官5 味覚』感想

というわけで、トクマの特選から復刊された4巻までを読み終え、特選では欠番扱いとなる本作もやっぱ一応読んどこうと思って読みました。
なんか既にわりとプレミアが付いてしまっていますが、少し前に買ってたので滑り込みでなんとか普通の価格で買えました。



新宿駅西口で凄惨な女性の切断死体が発見される。その直後に来た匿名の電話を元に新宿駅を張り込む捜査陣。囮捜査官の志穂も張り込みに参加するが、同僚を殺され、事件に関わりがあるとみられる女性も密室状況のバスの中で殺されてしまい......。


読む前は「欠番にまでしなくても、ちょっと修正して特選に入れれないのかな〜」とか思ってたけど、読んでみたらまぁ完全に無理でしたね。
なんせ冒頭から衝撃的な出来事が起こり、それを皮切りに志穂たちに降りかかる受難の数々......。これだけのことを経験して、しれっと再始動なんてことはやっぱ無理です。

......どうやら前作と本作の間でシリーズの担当編集者が変わったりのゴタゴタがあったらしく、それで著者もモチベーションが下がっていたといいます。
そう言われてみると、よく言えば衝撃的だけど悪く言えば投げやりみたいな展開にも納得がいく気がします。
特に性暴力の描写が官能小説みたいなエロさで描かれてるのはどうかと思います。なにやら言い訳みたいに解放みたいなことは書かれていますが、これって結局男に都合のいい解釈であってこれまで描いてきた「女性への抑圧や暴力」というテーマを冒涜するものにも感じられてしまいます。

......とはいえ、この辺は今回の「トクマの特選」による令和におけるテーマ性の再評価の目線からの感想であって、単純にひとつの娯楽作品としてみれば(下世話ではあるものの)むしろ今までで1番キャッチーな面白さはあると思います。

プロローグで起きるアレと、バスの中からの人間消失、さらに特被部と志穂に迫る危機や国を牛耳る巨悪の陰謀など、フックがありすぎて一度読み始めてしまえばもう完全ノンストップ状態。
事件の猟奇性も(これまでより浅いけど)表面的には1番エグいし、2つの密室殺人のトリックもしっかりあるし、うん、めちゃくちゃ面白いんですよ。
悪趣味なエログロミステリだって私は好きなので、そういう作品だと思えばめちゃくちゃ面白い。ただ、これまでシリーズを通して読んできて北見志穂さんのファンになってきた読者からするとやっぱりこれは受け入れ難いよね、っていうそれだけ。

そんなわけで、こんなのはさっさと欠番にして、10月からのリブートを楽しみにしております。