奇妙な理由でアリバイ崩しを承ってる美少女時計屋の店主。刑事の主人公は仕事でアリバイに行き詰まると、近所の商店街にあるこの時計屋で「アリバイ崩し5000円也」を利用してるっていうお話。
いや、作中でそんなに美少女設定は出てこないけど、浜辺美波ちゃんでドラマ化されるらしいので、完全に浜辺美波ちゃんで当て読みしてしまい、幸せな時間を過ごせました。顔が良い。
それはさておき、探偵役の時計屋が刑事の主人公から話を聞いただけで謎を解くという安楽椅子探偵ものの形式をとった連作集で、各話40ページ程度の短さで非常に読みやすいです。
そして、毎話毎話しっかりと意外なトリックが仕掛けられていたりロジックの組み立ての面白さが味わえたりと、一定してミステリとして高水準な作品が並び、作者との知恵比べを楽しめます(私は何も分からなかった)。
ただ、短いわりに謎解きの密度が非常に高いので、それがストーリー性の無さや伏線の分かりやすさにつながっているとも言えます。
謎解き小説にそんなに複雑なストーリー性は要らないとは思いつつ、例えば『赤い博物館』の「復讐日記」や『アルファベットパズラーズ』の「Yの誘拐」のような物語さえパズルの意外性に組み込んだ傑作たちを思うとやや物足りないのは否めません。
また、1問も解けなかったくせに言うのもなんですが、余計なものが削ぎ落とされすぎて、「これ伏線だな」という描写がだいたい目についちゃって、そこんとこの意外さは味わえなかったのが残念。
とはいえ、短くさらっと読めてこれだけ粒揃いでトリッキーな短編が並んでいたら面白かったと言わざるを得ない。こちらもドラマ化効果で続編とか出るといいな......。雪辱を果たしてぇ。
以下各話ほんとに一言コメントです。
「ストーカーのアリバイ」
一発目からこの笑っちゃうような大胆なトリックなので「あっ、そういう本なのね(察し)」となりました。
「凶器のアリバイ」
これもほんの一端は分かったものの、そこまでやるか!な真相を全て見抜くなんてことはとてもとても......。犯人はクズだけどここまでやったのは偉い!人を憎んで罪を憎まず!
「死者のアリバイ」
赤い博物館にもあった、事故現場に居合わせ系導入。このシチュエーション好きなのかな。犯行の自白までありながら、アリバイがあるのが分からんというもどかしさ。ベタなネタを組み合わせる見せ方がやっぱり巧くてそう来たかと驚かされました。
「失われたアリバイ」
恋に満たないくらいの淡い気持ちが描かれる甘酸っぱいお話......にできそうなところを、それはほんの隠し味程度でやはりストイックに謎解き重視なのが頼もしい(?)。伏線がけっこう分かりやすいのでなんとなーく近いところまでは予想できつつ細かいとこが詰められませんでしたね......。
「お祖父さんのアリバイ」
異色のほのぼの編。とはいえトリックはこの設定だからこそ使える大胆不敵なもので大いに笑いました。ここまでやる爺ちゃんが可愛いわ。
「山荘のアリバイ」
中学生の少年のキャラがいい。テンション高いアラサーのお姉さんのキャラもいい。
個人的にこういうオチはあんまり好きじゃないんですけど、とはいえ騙されましたね。悔しい。
「ダウンロードのアリバイ」
最後の話ですがいい意味でこれまで通りの金太郎飴的ルーティーン。アリバイ自体が非常に微妙なものですが、それだけに取っ掛かりを見つけるのもちょいムズ。小技の組み合わせでここまで凝ったアリバイトリックを作っちゃう犯人の熱意に乾杯です。