偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

水鏡月聖『僕らは「読み」を間違える』感想

なんか乙一推薦とかって話題になってたので読んでみました。


学生という生き物は、日々「わからないこと」の答えを探している。
明日のテストの解答、クラス内の評判、好きなあの子が好きな人。
かく言う僕・竹久優真も、とある問いに直面していた。
消しゴムに書かれていた『あなたのことが好きです』について。
それは憧れの文学少女・若宮雅との両想いを確信した証拠であり、しかしその恋は玉砕に終わった。
つまり他の誰かが?
高校に入学した春、その“勘違い”は動き出す。
「ちょうどいいところにいた。ちょっと困っていたとこなんだよ」
太陽少女・宗像瀬奈が拾い集めてくる学園の小さな謎たち――
それらは、いくつもの恋路が絡みあう事件《ミステリー》だったんだ。

(出版社公式サイトより転載)


なんつーか、よくありそうでいて実はかなりヘンな話だったのであらすじを書くのも難しく、そのまま転載しちゃいましたが、この公式のあらすじもぶっちゃけよう分からんので難しいところです。

とりあえず、主人公の優真を中心にメインキャラ7人の恋模様をミステリっぽい手法で描いた青春恋愛群像ミステリ......といったところでしょうか。
ただしそれは全体というか、主に後半の話であって、前半は優真視点で文学作品の「裏の真相」を推理するビブリオミステリのような結構になっております。
......んで、ここがなんつーか、こう、イマイチなんですよね。
先に言っとくけど最後まで読んだら傑作です!

そう、前半は主人公たちがワチャワチャしながら「走れメロス」「藪の中」「蜘蛛の糸」などの文学作品の裏読みをしていく話なんだけど、まずワチャワチャのノリがやや鬱陶しいというか......。
下ネタ大好き腐女子が男子小学生並みの低レベルな下ネタを連打してくるのもちょっとしんどいし、やたらと可愛い女の子が出てきて主人公が全員好きになるから初恋エピソードの切実さが薄いのもなんだかなぁという感じ。いや、もちろん童貞は可愛い女の子とちょっと話せば全員好きになるものですが、そんな身も蓋もないリアルを描かれてもときめかない!
ほんと、最後まで読むと「こんなに描ける人だったんだ......」と上から目線で思っちゃくらいギャップがあるので、こういう所謂ラノベっぽいノリはやめといた方がいいんじゃないかと思ってしまう。
あと、文学作品を裏読みするあたりも、まぁよくある陰謀論に近いような奇説のオンパレードで、「サツキとメイは死んでる!?」とか「セブンの真犯人はモーガンフリーマン(役名失念)!?」みたいなしょーもなさを感じてしまいました。
もっとも、そのノリでガッツリ読解される作品は実は上記の3作品だけで、いずれも教科書に載っていてほとんどの人が読んだことがあるはずの作品です。ネタバレ解説みたいなことをするのは超メジャー作品に止めて、本の読み方は自由だということを本書のターゲット層の若者に伝えたい......という文学愛の成せる業なのかもしれん。
(てかラノベのターゲット層はほんとに若者なのか?)

......という前半も実は後半のための仕込みのようなもので、ある時点で視点キャラが一旦変わるあたりから、これまで主人公視点でしか見ていなかった物語の新たな解釈......本書タイトルで言うところの「読み」が提示され、そっからはどんどん今まで見ていた景色が上書きされていくような爽快感にめった打ちにされました。
別に衝撃のどんでん返しとかではないけど、少しずつの意外性がそれぞれのキャラクターに奥行きを与えていく過程はまさに「『読み』を間違えてましたすんません」って感じ。前半のステレオタイプラノベ風のキャラ描写も、この読み替えのためだったんだと思えば全然許せちゃう......んだけど、読み始めではそんなことは分からんので、これから読む人はどうか騙されたと思って途中で投げ出さずに最後まで読んでください。
ただ、結局最後まで読んでも主人公が可愛ければ誰でも好きになる奴であることは変わらず、彼にはもっと誠実な恋愛をしてほしいと思いました(適当)。

あと、作者の化身みたいなキャラクターが出てくるメタっぽい遊びもあり、後書きまで読むと「やっぱあいつ作者じゃん」みたいになるのも遊び心あって好きです。

個人的には口絵を見た段階でサラサちゃん推しだったんですが(顔が好きなだけだろ)、最後まで読んだらもう断然サラサちゃん推しになってしまいました。

どうも出たばっかでもう2の刊行予定があるようです。本作で既にやり切ってる感はあるだけに、次はどんな手を使ってくるのか期待と不安に胸を膨らませながら待ちたいと思います。