偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

笹沢左保『結婚って何さ』感想

トクマの特選笹沢左保9作目。


上司に啖呵切って会社を辞めた真弓と三枝子。自棄酒煽ってバーで出会った男と旅館に泊まるが、翌朝目覚めると男は殺されていた。現場は密室状況、濡れ衣を着せられることを恐れた2人は決死の逃避行に挑む......。

異色作という宣伝文句で出ましたが、タイトルが変わってるだけで内容はわりといつもの笹沢ミステリ。もちろんめちゃくちゃ面白い安定のクオリティでございます。

まず冒頭の女子2人自棄酒煽るあたりから逃げ出すくらいまでのノリは確かに異色かも。アメリカンニューシネマみたいな明日も見えない不安と狂騒の雰囲気があって良いですね。あるいは、濡れ衣を着せられて逃げ回る様はヒッチコックっぽさかも?
序盤で早くも意外な展開を見せながらノンストップの逃避行に突入する流れも最高です。
ただ、その後の展開は現代だったらわざわざああしないだろうなと思い、やや古臭く感じてしまいます。そっからはわりといつもの笹沢左保って感じ。
ただ、この短い長編の中で複雑なプロットとトリックを惜しげもなく注ぎ込んでるのが贅沢。トリック自体はめちゃくちゃありがちではあるけど、見せ方が上手いのでしっかり驚かされました。
ご都合主義的な展開も多々あるものの、そこはサスペンスとしてのスピード感で誤魔化してるあたりも昔の作品の大らかさがあって良いと思います。

そして、ラストのクライマックスのハイテンションと、そのハイテンションのまま印象的な結句で幕切れになるのが最高にアガります。序盤では取ってつけたように使われていたタイトルのフレーズが最後まで読むとピタッとハマるのも凄い。「空白の起点」「招かれざる客」なども詩的なタイトルの意味が最後に明らかになるのが見事でしたが、本作のような詩的というより風刺的なタイトルでもやっぱり上手く使いこなすんだなと感動。
結婚を扱い異性愛中心主義的なところは仕方ないにしろ、その結婚観に関しては現代にも通じるものがあり、人間関係への観察眼の鋭さを感じさせる傑作でした。

以下少しだけネタバレ。











































人物の入れ替わりによる密室トリックと交換殺人という二つのトリック自体はありがちですが、それがこの複雑なプロットに組み込まれることで謎だらけだった事件たちが一本に繋がっていく爽快感が味わえました。
列車での真弓と早苗の出会いや、犯人2人と郵便局員の森川との共通点なんかはかなりご都合主義に感じてしまいますが、これだけ錯綜した謎を一本に繋げるためには致し方ない感じもあるし、面白ければ良いや!という気がします。

ストーリー部分は現代だったら真弓と三枝子の逃避行をシスターフッド的に描くのが普通な気がします。わざわざ三枝子を殺してまで男女の色っぽい逃避行に擦り替えられるのには現代からすると違和感がありました。とはいえ、やはりこういう男と女の情事が云々みたいな話はお話としては好きなのでこれはこれで良かったですけどね。野球場のシーンはさすがにエロすぎる......。