偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『デルタの悲劇』感想

浦賀和宏の生前最後に出版された作品という意味で第一の遺作にあたる作品なのですが、本作の内容自体も「浦賀和宏」の遺作『デルタの悲劇』が発表されるというもの。狙って死んだわけでもあるまいけど、最後にやってくれたよな、という感じ。
まだ安藤直樹も完結してなかったし、生きてたら本作の流れで悲劇シリーズもあったかもと思うと残念でならない。



小学生の頃にクラスメイトをいじめて死なせてしまった悪道3人組。その件以降つるまなくなり大人しくなった3人だったが、10年後の成人式の日に、当時現場を目撃していたという男・八木が接触してきて......。


初期の二大シリーズではリビドーと自意識に塗れた私小説みたいなゲロエモミステリを描いていた浦賀和宏。しかし近年ではわりとトリック職人みたいな面も見せ始めていました。本作はそっちの浦賀の最高傑作と言っても良いのではないかと思います。

主人公の内面しか描いてないみたいな初期作とは反対に人間なんか描くのはハナから放棄することで200ページくらいに驚きと超絶技巧だけを詰め込んでるのが潔くて好きです。
そんなトリックに特化した作品なので、特に感想もないんですけど、とにかく凄いことやってます。
凄すぎてサラッと読んだだけだと分かりづらいほどなので、桑原銀次郎の名前を借りて著者自ら説明してるのもなんか笑います。
そんな解説まで入って200ページくらいの中編に近い分量で読めちゃうのでお得感がありすぎます。
ミステリの意外性の部分を重視する私みたいな人は必読っすよ!