偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

真造圭伍『センチメンタル無反応』感想

全然知らなかった作家さんのノンシリーズ短編集でしたがけっこー好きでした。

色んな味わいの8編を収録した短編集で、悪く言えばまとまりのない1冊ではあるけど、初読の作家さんなのもあってこんだけ幅の広さを見せてもらえた方が他のも読んでみたいなという気になる。
どうしても女性漫画に惹かれてしまうので、たまにはこういう男感強いのも良いね......っていうほど男臭いわけじゃないけど、男子っぽいノリに「わかるわかる」と無邪気に楽しめた1冊でした。
絵柄も青年漫画臭さがありつつちょっと小綺麗で可愛らしい感じでタイプでした。



「ディパーチャー」
不良に脅された恐怖から文化祭の日に友達と4人で家出しちゃうお話。
狭い町の閉塞感みたいなものを少し感じつつ、前に読んだ『さよならガールフレンド』みたいな切迫感がなくて、なんだかんだこの狭い町が居心地いいみたいな感じもあるのが男子っぽい能天気さでめちゃくちゃ分かりみが強い。結局ちょっと冒険探検したいだけです。ごめんなさい。
しかしそんな中で1人やべえ友達がいて、彼に対する嫌悪感と憧れと後ろめたさとあたりが複雑に混ざり合った気持ちってのもなんか中学生の頃にはあった気がするなぁ。公立中学で色んな家庭の子がいたしな......。
というのがあるので、オチがあれなのは読後感はいいが、ちょっと甘い気がしちゃうな。


「居酒屋内戦争」
てっきりビール派かカシオレ派かみたいな「戦争」だと思ってたらガチの戦争でびびった。今のご時世に読むとちょっと不謹慎な気もしちゃうけど、極端な状況を描くことで居酒屋で楽しく飲む日常の大切さが分かるまさにセンチメンタルなお話で、1ページ使って描かれるとある風景とモノローグがとても印象的でした。


「美術部の海野さんと山田くん」
部活にこんなギャルがいたら人生狂いそう(狂いたい)(最高)。


「清水家のすべて。」
両親と兄妹の4人家族の清水家がみんな変なんだけど憎めなくて、憎めないけど良い状態ではなくて、変わらなきゃいけない、そのきっかけのお話。
「こんな家族」なんだけどかけがえない家族なんだという、ほろ苦くも暖かみのあるお話。主人公(清水妹)のクールさがギャグを際立たせつつイイハナシ感を出しすぎないちょいど良い話にするのにも貢献してて好き。てか清水で美智子なのはギャグなん??


「いつでもフラッと飲める友達がほしいよ」
タイトル通りの気持ちを抱く漫画家の主人公がふらっと知らない飲み屋(常連しかいないようなとこ)に入るお話で、タイトルからしてわかりみが強い(酒飲めないけど)。人と話すのが苦手すぎてこういう人との繋がり方に憧れてしまう。特にこんな巨乳美人とふらっと入った店でたまたま知り合いたい。おっさんはどーでもいい。店名もあまりにもアホくさくて好き。なんてことない特別な夜のあの感じがもうね、良いよね。良いなぁ。


「トーキョーエイリアンブラザーズ 後日談」
タイトルに後日談とあるように著者の長編作品の後日談。しかしもちろん単体で読んでも良い。
超然としつつ不器用なエイリアンブラザーズがさらに不器用な女性を励まそうとするのが健気でにやにやしちゃうし、最後のセリフは、これがここで来るのかと感動。


松本大洋になりたかったよ」
松本大洋読んだことなくて分からんけど、なんとなく分かるから凄い。やるせなく情けない話でありつつ、漫画家として歩き出す第一歩のお話でもあり、「そうやって成長するんやで」と謎の上から目線で思ってしまった。
とりあえずピンポンとか青い春とか鉄コンくらいは読むか〜。


悪性リンパ腫で入院した時のこと」
最後はタイトル通りの体験を描いたエッセイ漫画。
病院で起きたとある事件の真相がグサグサ刺さってくるし、漫画家の業を感じさせるところもあり、軽妙な語り口ながら心に残る良いエッセイだと思う。
最後にこれが入ることで著者の他の作品(ひらやすみとか)を読みたくなっちゃうのずるいよね。