偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

大山誠一郎『記憶の中の誘拐 赤い博物館2』感想

『赤い博物館』に続く緋色冴子シリーズ第2段。

本作も純度100%のパズラー短編集で、読者への挑戦状こそないものの「解いたるで!」という心意気で読みました。
結果、最初の3編はぼほぼ解けて、「なんか簡単すぎんか?」とか思ってたら後半2編でやられるという、だんだん難易度が上がっていく構成になっているので、解きながら読み進めていくと楽しいと思います。

ちなみに解説では「ネタばらしにならないよう」とか言いながらよく読むとかなりヒントになることが書かれていたりするので注意。
以下各話感想というか推理結果。



「夕暮れの屋上で」

卒業式前日の夕暮れ、高校の屋上で少女は殺された。教室のワックスがけをしていた業者が、「先輩のことが好きなんです」という少女の声を聞いており、警察は少女の部活の先輩であった美術部の3年生3人を当たったが、決め手がないまま事件は迷宮入りし......。


屋上の告白のシーンはいかにも青春ミステリ的でかなり好きなんですが、その「先輩」の正体は?というのは謎としてやや弱い気はしてしまいます。
真相には一捻りあるものの、逆に言えば一捻りしかないのでミステリを読み慣れていたら深く考えなくてもすぐ解けてしまう程度の難易度で、犯人当てとか当てられた試しのない私でも完全解答してしまったのでやや物足りないです。
終わり方は新本格ミステリっぽくてけっこう好き。



「連火」

かつて4ヶ月の間に立て続けに起きた連続放火事件。犯人らしき人物が「5件目でもまたあの人に会えなかった」と呟いていたという証言から、事件は「現代の八百屋お七」と呼ばれるが......。

八百屋お七ミステリ」と言うと「八百屋お七」であること自体がメイントリックのものが多いですが、本作はそこはあらかじめ明かした上で......という作りになっている点は新鮮。
ただ、正直言って何が謎なのか分からないくらいそのまんまの話で、冒頭を読んだ段階で想像した筋立てほぼそのままなのはあまりに物足りない。てっきりそう見せかけて別の真相があるんだと思ってむしろ考えすぎてしまったくらいです。



「死を十で割る」

頭、胴体、両腕両足を関節で2つずつ、合計10のパーツに切断されたバラバラ死体。被害者の身元はすぐに判明したが、死亡推定時刻と同じ頃に被害者の妻が電車に飛び込み自殺をしていて......。

前の2話が簡単すぎましたがこれはそこそこ歯応えありました。まぁでも8割型解けてはしまいましたが......。
解けたもののメインのアイデアはあまり見たことのないもので面白かったし、(ネタバレ→)死後硬直の始点についての推理は出来たものの、硬直が解ける時間の方までは頭が回らず、その動機も異様かつ切なくて何とも言えない悲しい後味が残るのも良かったです。



「孤独な容疑者」

社内で同僚に金を貸しまくっていた男が殺された。残されたダイイングメッセージは偽装である可能性が高いと見られたが、その後浮かび上がってきた容疑者にはアリバイがあり......。

ようやく解けないやつが出てきました。
言い訳させてもらうと、大事な情報が解決編の中で出てきたり、ロジックの蓋然性がやや低く感じるところはあり、解けても推測の域を出ないものである気はしますが、それでも推測は出来たはず!悔しい!この悔しさをバネに精進します。
内容に関しては、謎解きの主眼がどこにあるのか分かりづらいところが面白く、考えを向けていたところとは全く違うところから真相が現れるような驚きがありました。
......それにしても、同僚に金を借りる人間が30人もいる会社、あまりにもクソすぎるでしょ。



「記憶の中の誘拐」

幼い頃に誘拐された記憶を持つ青年。誘拐犯は彼を捨てた実母だと見られたが、犯人は巧緻な計画を立てながらも土壇場で身代金の受け取りを放棄していた。
青年の旧友でもある寺田が再調査を始めると、さらなる疑問点が浮かび上がってきて......。

これは文句なしにやられました!表題作に相応しい力作です。
推理のとっかかり自体は分かりやすくぶら下げられているものの、それをどう考えればいいのかが分からず敗北......。
正直なところ、その動機でそこまでやるのか?みたいなのは思わなくもないですがまぁそれは本格パズラーのお約束みたいなもので、その点を抜けば完敗です。
解説で連城三紀彦の「白蓮の寺」が引き合いに出されていますが、話の内容だけでなく物悲しく奇妙な雰囲気にも確かに連城っぽいものがあり、物語としての余韻も本書では随一。
(ネタバレ→)身代金受け渡しで連れ回された店の名前に暗号があるみたいなてんで的外れなことを一生懸命考えてしまったのが悔しいわ。