偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

青崎優吾『地雷グリコ』感想

先日フォロワーのばぶるさんと初対面した時に本屋で買わされました。


勝負事に強い女子高生の射守矢真兎と友人の鉱田ちゃんが挑むのは、じゃんけんで階段を上がるあのグリコ(ただし地雷段付き)の地雷グリコや、グーチョキパーに加えてプレイヤーが考案したオリジナルの手を使える自由律じゃんけんなどのゲームだった。
次々と強敵を破っていく彼女だったが、やがてかつての親友にして最強の敵が立ち塞がり......。


『嘘食い』も『カイジ』も読んだことないのでこういうゲームもの(?っていうのか?)に慣れていなすぎてよく分かんないですがめっちゃ面白かったです!
どうしてもこういうお話って作者が勝手にルール決めて勝手にどんでん返ししてたり、敵の強さとかもまぁ作者の匙加減じゃんみたいな気持ちになりがちですが、それはそれとして劣勢からの一発逆転とかルールの穴を突く考えもしなかった奇策とかの見せ方、演出がめっちゃ上手いので、そんな思いを吹っ飛ばしてくれるくらいの痛快さがありました。痛快すぎて毎度毎度思わず笑ってしまうほど。特に後半の方では場外での心理戦なんかもどんどん白熱していってハラハラしました。
というか、帯に書いてある各ゲームのルールを見ただけでめちゃくちゃ面白そう!と思えるのでそれだけですごい。グリコやだるまさんがころんだなど、既存の遊びやゲームに一捻りしただけの、複雑すぎない(けど戦略の幅が一気に広がる)ところがいいっすね。

またキャラ造形も(個人的にはこういうキャラもの苦手なんですがそれは置いといて)良くって、語り手の絋田ちゃんと主役の射守矢の百合百合した関係性にはニヤニヤしてしまうし、後半ではそこにもう1人絡んでくることでシリアスさを増しつつもさらにニヤニヤさせてもらえたし、各話の敵キャラも適度にキャラが濃くて良い味出してました。
いちおう話としては本作でキリよく完結していつつ、いくらでも続編作れそうなのでシリーズ化するならするで楽しみっすね。


以下各話感想。



「地雷グリコ」
表題作にしてイントロダクション的な作品で、ゲームのルールもグリコに地雷段を加えただけのシンプルなものなので本作のノリにすっと入りやすい。
ルールのシンプルさに劣らないシンプルかつ意想外な勝負の決め手と、そこに至る複雑なロジックのギャップも良かった。



「坊主衰弱」
これだけ大人相手の汚いゲームであり異色作。そのためルールに則って正攻法で攻めるのではなく、お互いにイカサマを駆使して戦わなければならないのが面白かった。ただ、そのせいで(このゲーム特有のルールの抜け穴とかじゃなくて、普通にイカサマ勝負なので)オチが見えやすくなってるきらいはありました。しかし、このマスターの小悪党感は嫌いになれない......。



「自由律じゃんけん」
じゃんけんというゲーム自体もだし、相手の手の"能力"が読めないあたりとかも本書で一番少年ジャンプのバトル漫画っぽいノリで楽しかった!
オチは、え〜そんなんあり〜?っていう、してやられた感とちょっと納得いかない感が半々くらいのものですが、(ネタバレ→)缶ココアの存在からしてそこに繋がっているという仕込み方が鮮やか。まぁ、鮮やかすぎてこれ会長は見破れそうなもんだけどな......とも思ってしまうが......。



「だるまさんがかぞえた」
これは普通に声に出して笑ってしまった。もはや奇想とも呼ぶべき大トリック(?)をだるまさんがころんだを捻っただけのゲームで読めるなんて感涙......。私みたいな素人でも一瞬で「こっちのが不利じゃない?」って思う状況からの追い上げ方がすごすぎて愉快痛快!本書の個人的フェイバリット作です。



「フォールーム・ポーカー」
最終話で分量も1番長く、ゲームのルールもこれまではシンプルな子供の遊びを少し捻ったものだったのが、本作では元ネタのポーカーからしてちょっと難しいゲームで、そこに加わる捻りもやや複雑。運ゲーであるポーカーを論理と心理戦のゲームに転換するルール自体がもはや奇想。
そして、論理、仕掛け、心理戦、全部乗せの本書の集大成のようなお話になっていて、全4ゲーム構成のうちの1ゲームごとに何かしら意外なことが起こる贅沢さ。
仕掛けそのもののインパクトは「だるまさん」が上だと思いますが、そこそこの大技を何度も何度も連発するような興奮があり、めちゃくちゃ楽しかった!
そして3人の百合っぽい関係性の行方も見所!
それにしても私みたいな安月給のサラリーマンからすると高校生がこんな大金賭けて遊んでるのに若干イラッとしてしまいます笑。