偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

indigo la End アルバム未収録曲の感想だよ

というわけで、『あの街レコード』を含むメジャーデビュー以降のアルバムについて一通り書き終えたので、補遺的な感じでアルバムに入っていないカップリング曲などについても書いていきます。(会場限定シングルとかは除く)
やはりスピッツの影響を受けているからか、インディゴもカップリング曲にもハズレなしで、なおかつA面にはならないような実験性が強い曲も多いなぁと改めて思いました。
とはいえ普段アルバムで聴くことが多く、どうしてもアルバムに入ってない曲は聴く機会が少ないので、この機会に改めて聴き直せて良かったと思います。

では以下一曲ずつ書いていきます。




シベリアの女の子

2014。1st single『瞳に映らない』収録。

たしかインディーズ時代からあった曲だったと思います。てか、そうとしか思えない野暮ったさがある曲です。
いかにも邦ロックと言う感じで、indigoに期待する憂いや切なさはないけどこれはこれで意外と好きだったりします。
チャキチャキしたギターリフのイントロからしてもうあの頃の邦ロックですもんね。
ちょっとのどかでちょっと切なく、さらっと聴き流せる軽さが今のindigoにはない良さでもあると思います。
あと、ベースの動きがけっこうねっとりしてたり一瞬スラップしたりしてるので、そこでいなたさが和らいでちょっと洗練された感じに聴こえるんだと思います。

歌詞も軽いけどちょっと切ない恋の風景を切り取ったもの。
今みたいな技巧がなく、捻くれてはいるけど、その捻くれ方が真っ直ぐな気がします。

頭の悪いシベリアの女性に会って

という歌い出しからしスピッツを性格悪くしたみたいで今思えば微笑ましいですね。
「シベリアの女の子は白くて綺麗」みたいな浅い感じがしますが、めちゃくちゃ切実じゃないけどちょっと切ないような雰囲気は好きです。
肌の白さと夕焼けの赤の対比とかの小技を使っちゃってる感じも初々しくて可愛いですね。




幸せな街路樹

2014。1st single『瞳に映らない』収録。

この曲は「indigoで好きな曲を10曲挙げろ」って言われたら挙げるくらい好きです。

たぶん、indigoにとって初めてのがっつり「命」をテーマにした深刻な曲。後の「インディゴラブストーリー」や「Unpublished manuscript」などの曲に繋がってると思います。
コーラス付きの歌始まりなところからして意味深で、ドキッとさせられます。

曲の構成はプログレっすよね。
Aメロは憂いを纏ってあてもなく夜道を歩くような倦怠感。Bメロは流れゆく命を想って走り出すような焦燥感と切迫感。そしてサビでは祈るような切実な歌が印象的。
シーンが変わるごとにムードを作り出していくリズム隊。もう一つのボーカルのように、メロディアスな旋律を奏で続けるギター。印象的なコーラス。そして、今から思えばまだ上手くないものの、だからこそ切実に胸に響く絵音の声。
どの曲でもそうなんですが、この曲は特に、流れているすべての音が大切に思えるくらい思い入れが強いです。

その思い入れの要因になっているのはやっぱり歌詞なんですけど。

家に帰る目じるしにした街路樹に今日も話しかけて愛を振りまいた

という情景から始まり、街路樹に愛を振りまく光景が映像的に描出されていきます。
しかし、相手は樹なので、その愛は当然一方通行。
我々はどうしても愛を与えられることを求めてしまうけど、与えることもまた幸せなのではないか?というお話なんですね。

Bメロでは「君」という二人称が出てきます。「また会えたらいいなって」というところから、どうやら君は別れたかつての恋人のようです。
街路樹に「今日も」話しかけているところから、君と別れた後にその寂しさを埋めるために街路樹に話しかけ始めたようです(って書くと変質者みたいだけど......)。
過去の悲しい失恋から時が経ち、街路樹に愛を与え続けることによって、僕はとある気付きを得ます。

与える側は愛に満ち溢れている、そう考えれば楽じゃないか

君からの愛は返ってこなかったけど、君を愛せただけでも幸せだった、と。それは半分は強がりなのかもしれないけど、そんな考えから、思索はさらに

意外とこの世界は救いがあるような気がするんだ
僕だけですか?
止められない兵器と命の釣り合わない交換も知った上で
奪い合う醜い僕らも与えられていて与えてもいて

というところまで広がっていきます。
恋愛によって与えることの幸せを知ったことで、それを世界平和にまで敷衍していく。
人間には奪い合う醜い面もあるけど、与え合う美しい面もある。奪うことで我欲を満たすより、与えることで心を満たした方がよっぽどいいじゃん。

幸せな街路樹を植えてさ あなたも与えて

「僕」の中だけで完結する極めてミクロな思索を、聴いているただ1人の「あなた」に手渡す歌。それを繋いでいけば世界は少しずつ良くなるはず。
悲しいかなとある国で戦争が起きてしまった今、「与えて」のリフレインがより切実に胸に響きます。
All You Need Is Love。僕らに必要なのは、誰かに与えなきゃ溢れてしまうような内から湧き出る愛だけなのかもしれない。




SLY QUEEN

2014。2nd single『さよならベル』収録。

インディーズ時代の「キャロルクイーン」を下敷きにした曲。「キャロルクイーン」はなんかindigoなのかゲスなのかよく分からんような曲なんだけど、こっちはより洗練されて、ちょっとだけindigoらしさも強くなってます。
ベースの一音目からのギターがかなり激しいイントロからヘビーなAメロ。からの、疾走感を増すBメロ、そこにポップさも加わるサビ、さらに2番にかけても二転三転する展開に弄ばれる気持ちよさがあります。
Bメロが既にサビみたいな盛り上がりがあるのでサビが2回あるみたいでお得感もありますね。Bメロの前のギターのジャーンって音がめちゃくちゃ好き。
サビのボーカルのめっちゃ高音伸ばすとこから入ってごにゃごにゃってしてくところが初期の川谷絵音らしさ満点な気がします。

歌詞はかなり余白が多いのでなんのこっちゃら分かんないっすね。

sly but kind
毒づいた 君のこと
sly but kind
毒された 僕のこと

嘘だった 嘘っぱちだった
優しいふりしてただけなんだ

「SLY QUEEN」というタイトルは言ってみれば「ズルい女」ってことですよね。この辺は確かにズルい女への恨み言のような感じで分かるんですよ。
ただ、その後の

身の振り方を考えろよと統制される 僕らの生活

ここで一気によく分かんなくなるんですよね。
いや、ここだけならそれはそれで世の中へのフラストレーションみたいな感じで理解できるんだけど、繋がりがわかんないんですよね。
まぁ、強いて言えば繋がりは特になくて、恋愛における苛立ちと世の中への苛立ちを同時にぶちまけてるだけ、ということかもしれないですね。というか、そういうふうに解釈していますが他になにか考え方があれば教えて欲しいです。




渇き

2015。3rd single『悲しくなる前に』収録

渇き

渇き

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indigoはイントロがいい曲多いけど、この曲のイントロはその中でもかなり好きです。
ドラムロールかと思うくらいのドラムの音からのツインギターが印象的でベースもうねうねしてかっけえすぎるイントロ!
手前のギターがチャラチャラしてて奥のギターがパラリラパラリラ言ってるギャップに萌えるよね。語彙力が無さすぎて読んでる人に伝わってるのかどうか分からなすぎる。
2番から急にベースが元気になるところも好き。
ただ、ヴァースの部分の絵音の歌い方がなんかこの曲だけやけにアホっぽく聴こえてしまうのですが、、、。

この曲は「悲しくなる前に」のカップリングですが、歌詞が「悲しくなる前に」と緩やかに対になっている気がします。
「悲しくなる前に」は、別れた後の女性目線で「夜更けに向かって走った」と歌われるのに対し、この「渇き」は別れる瞬間の男性目線で「君が切なさを纏って 走り去って行くのを見て立ち尽くした」と歌われます。
時系列的には続編と前日譚のようでもあり、男女両方の視点から一つの別れを描いているようでもあります。
また、このシングルが出る一つ前のアルバムに収録されている「心二つ」という曲では「渇く前に君に触れるんだ」「涙が枯れるまであと10分」と、「渇き」と「悲しくなる前に」のキーワードが入っていたりもします。
「心二つ」は死別の歌だと思っているのでストーリー上の繋がりはないと思うけど、「心二つ」のモチーフからまさに2つに別れたのがこの「悲しく」「渇き」の2曲なのかもしれません。こういう意味はないかもだけど意味深なやり口が上手いっすよね。

さて、他の曲とのリンクの話ばかりしてしまいましたが、この曲の歌詞について。
この時期のindigoに顕著な「少しの具体的な情景描写から、心理描写に潜っていく」という作りの歌詞になっています。

鳥が飛び立ったのを 合図にして君は立ち上がった

歌詞に鳥が出てくるのはサカナクションの「ミュージック」の影響のような気がしますが、この曲では鳥が飛び立つことが恋の終わりを指しています。
他に、タイトルになっている「渇く」や「色を失う」というのも恋の終わりを表す表現として使われています。
その中でやっぱりタイトルの「渇き」の使い方が面白いですね。
渇くっていうと、イメージ的には相手への気持ちが枯れる見たいなのを思い浮かべますが、この曲からは2人の間の関係が渇くといったニュアンスを感じます。
確かに、恋の終わりって気持ちが渇くというよりは気持ちは変わらないままでも2人の間にあった潤いがなくなってしまう感じですよね。この辺の恋愛に対する洞察の鋭さはさすが現代の恋愛マスターだと思います。
結局のところ曲の中で実際の光景として描かれるのは公園のベンチ(かどこか、屋外の座れる場所)で別れ話をして女の方が走り去るっていうそれだけなんだけど、そこに色々と重ねさせられるのが凄い......。
最後の数行の流れも良いですよね。




夢のあとから

2015。4th single『雫に恋して/忘れて花束』収録


悲しみの底に沈んでいくような重くて深いベースと、静かなキーボード、アコギが印象的なイントロからして、深夜の1番暗い時間のようなSad but Sweetな、というよりSweet but Sadなムード満点。
サカナクションの「mellow」とか「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」とかが好きなんですけど、その辺のサカナクションを彷彿とさせる、そこにindigo特有のエモい切なさが加わった曲です。

失恋した後に、indigoの曲をシャッフルで聴きながら散歩してどんどこ悲しみに沈むのが私の作法なんですけど、そん時にこの曲の穏やかな諦念を感じさせるサウンドが心地良くて特にたくさん聴いてたのでめちゃくちゃ思い入れが強いです。
当時は本当にindigoで1番好きな曲でした。

夢を見たのさ 絵の具で描いた夜明けの海で
わかっていたから 君の隣りで眠っていたんだ

ダメなんだけど、浸ってしまう気持ちですよね。忘れなきゃいけないのにいつでも彼女のことを考えてしまって、むしろ考えてるうちにどんどん実際よりも美化されていたりもするし、悲しみに浸る自分に酔ってるって側面も多分にあったり。苦しいんだけど、苦しみで心が満ちているからある種倒錯した満足感のようなものもあったりするんですよね。

I'd rather she be with me
Only that

それでも、「彼女が側にいてほしい、それだけでいい」(訳が合ってるかは知らん)という、ほんとにただそれだけの状態に、もう2度と戻れないというその理不尽さ。
他のどうでも良い友達には誰にでも会えるのに、1番会いたい人にだけはもう会えないっていう絶望に耐えるのに、私は海に潜って悲しみに溺れるしかなかったなぁという回想。
でも失恋ソング聴いて浸っていられるうちはまだよくて、今の彼女に一旦振られた時には音楽なんか聴けなくて日中は魂が体と乖離したような感覚で過ごし、夜は毎日泣いてましたからね。
失恋ソングを聴いていられるうちは純粋な恋なんでしょうね。今思えばそこまで含めて恋の輝きなんだと思える気もします。もうあんなのは嫌だけど。




24時、繰り返す

2016。5th single『心雨』収録


全パートが掻き鳴らすって感じに掻き鳴らしてる激しいイントロの焦燥感。
切ないというよりはちょっと軽い感じで、何度も何度も何度も何度も繰り返すサビの歌詞とか、間奏からのプログレな展開も含めてかなりゲスっぽい特徴を持った曲。
言ってしまえば「Mr.ゲスX」みたいな感じですね。
それでいて、聴いてる感じは別にゲスっぽくは感じないあたり、「SLY QUEEN」の頃に比べてindigoらしさが確立されている気はしますね。
地味にこの曲のコーラス好きなんですよね。「左胸に刻みつけた」の後のところとか、ちょっとゾワっとします。
ハードロックパートの後のラスサビでそれまでとメロディが変わるところも好きすぎる。

歌詞はすごいなんとなくですけどTwitterのことかと思います。

何度も何度も何度も何度も思いの丈を投げつけた
何度も何度も何度も何度も返ってきては傷付いた

この辺の会話というには両一方通行な感じとか。
まぁTwitterはさておき、夜に物思いに耽って色々と溢れてきちゃうのは分かります。
でも最近は完全に朝方になってしまったし悩みも特にないので、かつて分かりみがあったという感じっすね。
孕むとか風化とか左胸とかカッコいい言葉を色々使ってるのに「わからないけどもうダメで」ってとこは弱々しいのが切なくも面白いです。




夕恋

2017。6th single『冬夜のマジック』収録

夕恋

夕恋

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1番はコーラスが入る以外はアコギ弾き語り。
まぁアコギ弾いてるのは長田くんかもしれんけど。
ピアノの弾き語り風なら『藍色ミュージック』にも2曲ありましたが、ギターだと「あの街の帰り道」以来とかじゃないかな。
あの頃に比べると弾き語りでも音に深みがあるし声に反響感があるから余計にそう感じるのかもしれないけど歌の説得力も増してます。

歌詞ですが、あの騒動よりけっこう後の曲ではあるのですが、がっつり不倫の歌でびっくりしました。おい。

水を買っとけば良かったね
って会話も愛しい

っていう歌い出しからしてもうラブホにいますからね。けしからん。

変わったTシャツの趣味が合ったり

という一文だけで、息が詰まるような現実圧の強い結婚生活の中でサブカル趣味で「妻」という役割から離れた「自分」を保とうとする人妻と、その憂いに惹かれる大学生の主人公......という人物像を浮かばせるあたりはさすが。

大人になれない恋がしたいと夕に投げる
このあとの夜を明かしたら あなたは笑うかな

まだ情事(コト)に及ぶ前の「夕」の時間だけの恋。夕方にホテルにいる時の倦怠感や背徳感といった「俗」の気配が、このある種ピュアな夕だけの恋の儚さや切なさを引き立てているのが美しいです。スイカに塩かけるみたいに。
「この後の夜を明かしたらあなたは笑うかな」の見透かされてる感じと、見透かされてることも知っていながらズブズブと深みにハマってしまう感じとがエグいっす。

目の前の恋心より 指輪外したあなたの方が
近く浮かぶ そんなこんなが大人だなって
でも

1番が終わって2番のぼうとうのここでようやく不倫という状況が明かされるのも上手いですよね。薄々気付いてはいたけど......みたいな。