偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

フォロウィング

先日映画館で『スプリット』を観に行った際、クリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』の予告編を観ました。圧倒されました。予告だけでこの迫力なら本編観たら私どぉなっちゃうの!?というわけで、絶対観に行こうと思いつつも、昔の低予算の作品が懐かしくもなり......これを借りて来たのでした。

 

 

フォロウィング [DVD]

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製作年:1998
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジェレミー・セオボルド、アレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル

 

☆4.5点

 

〈あらすじ〉

自称作家志望の主人公の趣味は、街で見かけた人の後を尾けること。尾けるだけで何もしない。ただの人間観察。ある時、彼は尾けていた男に勘付かれてしまう。しかし、その男も人間観察のために泥棒をする変人で......。

 

 

2回目の鑑賞。恐らく大学1年生ぐらいの時に初めて観たんだったと思います。あれから4年経ち、今や社会人1年生ですが、この映画はあの頃と同じ興奮を味わわせてくれました。

Wikipedia先生で調べてみたところ、制作費は6000ドルとか。物凄く雑に1ドル→100円で計算すると60万くらい?映画の制作費についてよく知らないのでどれくらい少ないのかピンと来ませんが、次作の『メメント』でも既に900万ドル、最新作『インターステラー』に至っては1億6500万ドルというのを見ると数え間違いかと思うくらいの差ですよね。インステ約3万倍ですよ!?

でもでも、本作はそんな超低予算というハンデをものともしないどころか逆に武器にまでしてアイデアとセンスだけで戦っためちゃくちゃアツい作品なのです!

 

アツい、といっても、作品の雰囲気は冷たく硬質なフィルムノワールへのオマージュという感じ。
あえて白黒にしてあるのも、普通に撮れば出てしまうだろう映像の安っぽさを、クラシカルでシンプルなカッコよさに変えています。

そしてなんといっても凄いのが脚本の緻密さです。
メインの登場人物はたった3人。脇役を入れたって総勢5人だけ。時間も70分と中編並みのコンパクトさ。
そんな限られた予算、時間、キャラでここまで緻密なミステリが出来上がるとは......。

本作の最大の特徴はやはり時系列のシャッフルでしょう。
これは後の『メメント』でも(確か本作よりもより必然的に)使われている手法で、ノーランの「知的」というイメージの原点だろうと思います。
何せ時系列が全くバラバラになった状態で話が進むので、序盤は特に「これはいつなの?」「主人公なんでケガしてるの?」「そもそも何してるの?」などなど頭の上にでっかいクエスチョンマークが浮かびっぱなしです。
それゆえに、その謎が少しずつ解けていって、少しずつ物語の全貌が見えてくることそれ自体がカタルシスであり、話が進むたびに謎が少しずつ解けていくことで常に小さなカタルシスが連続している状態を味わえます。要は観てるだけで快感。
とはいえ、もちろんただバラバラの時系列の本来の構造を解いていくだけが本作の謎解きではなく、その果てにある意外な結末こそがキモなのです。なんならそれまでの描写も全てこの結末のための伏線だったにすぎません。ここに至ってついにドMなミステリファンたる観客は快感絶頂に至るわけです。少しずつ絵が見えていく興奮、そして最後のピースが嵌った時の快感、"パズルのような"という形容詞はこの作品のためにあると言っても過言ではありません。

ここまでパズル的緻密さに焦点を絞ってきたので、「ミステリ部分が凄いだけでストーリーつまんないんじゃね?」と思われるかもしれませんがそれは杞憂です。
確かに、アクションとか恋愛とか家族愛とか友情とかは描かれません。
しかし、狡猾な男の鮮やかな手口を味わうクライムサスペンスとして、また名もなき男の身に起こる悲劇として、本作は観客の興味を惹いて離さない優れた物語でもあるのです。エンドロールで主人公の名前が"The Young Man"となっているのも、都会の片隅で孤独に生きる我々のような凡人に起こり得る悲劇として恐怖を煽ってきます。

緻密な謎解きパズルにして、狡猾なダークヒーローの暗躍譚であり、孤独な現代人の恐怖譚でもある本作。ミステリ、フィルムノワール、どんでん返し、クリストファー・ノーランが好きな人には是非とも必ず絶対に観て欲しい傑作であり、どれだけ大作を撮ろうともノーラン作品の中でこれが不動のマイベストです。
いやでも『メメント』も同じく緻密だし『プレステージ』のてんこもりさも好きだし『インターステラー』の壮大さも『ダークナイト』の興奮も忘れがたく......嗚呼、I ♡ ノーラン