偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

HANA-BI(1997)


余命少ない妻を持つ刑事の西。ある時、凶悪犯の自宅を張り込んでいる際に相棒の堀部が犯人に銃撃されて半身不随になってしまう。怒りに駆られて単独行動で犯人を捕らえようとし、結果同僚を死なせてしまった西は、刑事を退職し、サラ金で金を借りながら妻と旅をする。一方、車椅子になった堀部は西に勧められた絵を描くことで生きる意味を取り戻し......。



とても良かった......。
北野監督7作目。私が観るのは4本目。

時系列が乱反射して、最初のうちはどういう話なのかよく分からないんだけど徐々に輪郭が浮かび上がってくる構成がカッコいい。この構成自体がなんか夢とか記憶みたいな雰囲気を出していて、本作の持つ儚さをより強調している気がします。
主人公の元刑事・西を北野監督本人が、相棒の堀部を若かりし大杉漣さんが演じていますが、この2人が、西が刑事を辞めるきっかけとなった事件を境に対になるような人生を歩んでいくのが印象的。
西はヤクザからの借金にまみれ、強盗やったり取り立てに来たヤクザをぶち殺したりしながら破滅へと向かって妻と逃避行を繰り広げる。一方、堀部は一度は死を望むが西から貰った画材で絵を描くようになって再生していく......。
死にたがってる友達に、完成に時間のかかる絵を描く道具を贈ることで「生きろ」と伝える西さんの優しさが小粋で泣くよね。そして堀部が描く絵が凄い。「絵、めっちゃフィーチャーするやん」と思って誰が描いたのか調べたら、なんと北野監督自身がバイク事故の後でリハビリのために描いたものらしいです。「この人絵まで上手いのかよ......」と驚きを通り越して呆れるような気持ちになってしまいました。顔が花になった動物とか点描で描かれる桜など、シュールで奇妙だけど美しい世界。顔と体が繋がっていないところが足の動かない堀部(事故に遭った後の監督自身?)を思わせ、しかし顔の部分が生命力溢れる花になっていることで再生を思わせる......ような気がします。シンプルに絵として好きなので家に飾っときたいわアレ。

全体にシリアスで、主人公の西がほとんどセリフを発しないのもあって静かな印象の映画なんですが、ところどころにビートたけしらしいすっとぼけたギャグが挟まっているのも良すぎる。スクラップ屋さんの「頑張れよ」とかめちゃ笑った。そして、余命短い妻と過ごす時間の中でそんなギャグが連発されるのが、あまりにも愛おしく切ない。暴力的な刑事の顔と、妻を笑顔にしたいだけの愛妻家の顔の二面性がとてもリアルで、ここらへんの描写で一気に西というキャラクターに入り込んでしまいました。
それだけに、終盤からラストシーンの展開は悲しいんですが、あのラストは西と妻がお互いにお互いに相手に合わせているような、分かり合ってる感じがしてとても美しかった。このロマンチシズムは男には特に刺さるんちゃうかな。
凧上げの少女もめっちゃ美しかったので調べたら北野監督の娘さんだそうで、自作の絵や娘が重要なモチーフとして出てくるあたりからもどうしても自伝的な雰囲気も感じてしまってよりエモくなります。

タイトルの花火も、再生のモチーフである花と、死を象徴する銃声のダブルミーニングになってて凄い。静けさと激しさの対比のようでもありますし。タイトルからてっきり夏祭りが出てくる爽やかな青春ドラマかと思って超騙されたけど、本作で「花火」が出てくるシーンが少なく、しかし印象的で素晴らしかったので許します。
あと、こんな殺伐とした作品なのにメイキング観たら撮影風景は笑いが絶えず楽しそうでびびった。