偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』感想


第二次大戦下のソ連において多くの女性が看護師や料理人、また兵士としても従軍したといいます。
本書はそんな従軍女性500人超への聴き書きをまとめた本。
男によって戦争というものが語られる時、「どこの連隊で」「何何作戦に参加して」「勲章を幾つもらって」みたいなことばかりが語られる。そこから取りこぼされるリアルな声を女性への聴き書きによって掬い上げたのが本書です。

女たちの戦争は知られないままになっていた
その戦争の物語を書きたい
女たちのものがたりを

それまで重要とされてきた国とか数字とかそういうどうでもいいものではなく、どうでもいいとされてきた人の気持ちや生活、恋、恐怖、勇気......そういったものから戦争というものを生々しく描出していきます。
正直なところ、読む前は「聴いた話をまとめただけなんでしょ」という気持ちがなかったとは言えません。
しかし、読んでみると、これだけ濃密な、一生で味わえないくらいの感情を、これだけの人数分ぶつけられて受け止めて、それを取捨選択して短くまとめながらも熱量は失わないように文章に変換していく......というのがどれだけの偉業か思い知らされます。だって、読んでいるだけでこんなに苦しいのに。

私自身、今そう遠くないどこかの国で起きている戦争に真摯に向き合っているのかというと、必ずしもそうとは言えないです。
今も誰かが戦い死んでいるであろう中で好きなバンドの新譜にワクワクしたり美味い寿司を食いに行ったりしてます。
でもTwitterで戦争をネタにしてたり戦争反対してる人を冷笑したりしてる奴が多くてそういうのにはうんざりしちゃいます。

戦争のことを聞いただけで、それを考えただけでむかつくような、そんな本が書けたら

天災とか事故とか、大勢の人が亡くなることは戦争以外にもあるけど、戦争は人が故意に始めることでしかないっすからね。
もちろん地震で亡くなった人とかを軽視するわけじゃないけど、戦争で死ぬのだけは本当に馬鹿馬鹿しくて嫌だなぁと思ってしまいます。
しかも、本書を読んだら分かるように、ただ死ぬだけじゃないっすからね。
飢えたり疲れたり犯されたり殺さなければならなかったり目の前で子供を殺されたり......。
もう、サクッと死んじゃった方が幸せなんじゃないかってくらいの体験ですから、それをこうして語り継いでくれるのはありがたいことだと思います。
著者の言う通り、本書を読めば戦争のことを考えただけでむかつくようになること請け合いなので、全人類が読むべきだと思います。

私ってば読んだ本の内容をすぐ忘れてしまうので、本書の一つ一つの話も明日には全て忘れてるだろうけど、それでも本書を読んでいる間の胸のむかつきや恐ろしさや絶望感は忘れられないだろうし忘れないようにしたいと思います。
忘れないように、中でも特に印象に残った言葉をいくつかメモとして引用しておきます。

誰も二度と戦争を欲するものはない
武器兵器はすべて廃棄されるはずだ

あたしは夫を葬るんじゃありません
恋を葬るんです

うちの夫は、戦争に行く時、激しく泣いたのよ
小さな子供たちを置いていくんだって、嘆いたわ